「あの力士、もう土俵にいないの?」久しぶりに大相撲中継を見て、長年活躍したベテランの不在に驚いたことはないでしょうか。大相撲の世界では、怪我や年齢を理由に毎年多くの力士が髷(まげ)に別れを告げます。
特に昨年(2025年)からその前年にかけては、長らく幕内上位を支えた実力者たちの引退や断髪式が相次ぎ、一つの時代が幕を下ろしました。彼らの功績を振り返り、新たな門出を祝福しましょう。
- 貴景勝(元大関):首の怪我と戦い抜いた不屈の押し相撲
- 妙義龍(元関脇):技能賞6回を誇る玄人好みのテクニシャン
- 碧山(元関脇):ブルガリア出身の巨砲として長く幕内を維持
- 大相撲の世代交代:ベテランの引退が加速させる若手の台頭
去年引退した力士と断髪式を行った英雄たち
昨年話題となったのは、実際に引退届を提出した力士に加え、引退後の節目である「断髪式」を行った名力士たちです。ここでは、ファンの記憶に新しく、相撲界に大きな足跡を残した主な力士たちを紹介します。
彼らは単なる記録だけでなく、記憶に残る相撲で私たちを魅了してくれました。それぞれの最終最高位や得意技、そして引退の背景にあるストーリーを詳しく見ていきましょう。
貴景勝(元大関・湊川親方)
2024年9月場所で現役を引退し、2025年に盛大な断髪式を行ったのが元大関の貴景勝です。最高位は大関、幕内優勝4回という輝かしい実績を残しました。徹底した押し相撲を貫き、横綱昇進まであと一歩に迫った姿は多くのファンの心を打ちました。
慢性的な首の痛みに苦しみながらも、「大関から陥落したら引退」という覚悟を持って土俵に上がり続けました。現在は年寄・湊川(みなとがわ)を襲名し、その精神力を若手力士に伝えています。
妙義龍(元関脇・振分親方)
鋭い踏み込みと多彩な技で「相撲巧者」として知られた妙義龍も、土俵を去った一人です。最高位は関脇で、技能賞を6回も受賞するなど、その技術の高さは誰もが認めるところでした。特に立ち合いの鋭さは、横綱・大関陣にとっても脅威であり続けました。
30代後半まで幕内を務め上げましたが、最後は年齢による衰えと怪我には勝てず、潔く引退を決断しました。現在は年寄・振分(ふりわけ)として、境川部屋で後進の指導にあたっています。
碧山(元関脇・岩友親方)
ブルガリア出身の碧山は、190センチを超える巨体と強烈な突き押しを武器に活躍しました。最高位は関脇で、幕内在位は70場所を超えます。愛嬌のあるキャラクターでも親しまれ、日本国籍を取得して親方として協会に残る道を選びました。
晩年は膝の怪我に悩まされましたが、十両に陥落しても懸命に相撲を取る姿が印象的でした。引退後は年寄・岩友(いわとも)を襲名し、春日野部屋で師匠を支える立場となっています。
北青鵬(元幕内)
将来の横綱候補として期待されながらも、残念な形で土俵を去ることになったのが北青鵬です。2メートルを超える長身から繰り出す規格外の相撲で注目を集めましたが、不祥事により引退を余儀なくされました。
才能豊かな若手だっただけに、ファンからは惜しむ声と厳しい声の双方が上がりました。彼の引退は、コンプライアンス遵守の重要性を改めて相撲界に突きつける出来事となりました。
その他の引退力士と傾向
幕内経験者だけでなく、十両や幕下で長く土俵を支えたベテランたちも静かに髷を落としました。特に「花のロクイチ組(昭和61年度生まれ)」と呼ばれた世代の引退が相次ぎ、土俵の顔ぶれは大きく様変わりしています。
怪我の深刻化や、幕下陥落を機に引退を決意するケースが多く見られました。彼らの存在があったからこそ、若手が壁を乗り越えて成長できたと言えるでしょう。
引退を決断する主な理由と背景

力士が引退を決断する背景には、肉体的な限界や精神的な区切りなど、様々な要因が絡み合っています。ここでは、近年の引退力士たちに共通する主な理由を掘り下げていきます。
華やかな土俵の裏側にある、プロスポーツ選手としての厳しい現実を知ることで、彼らの決断の重みがより深く理解できるはずです。
慢性的な怪我による限界
最も多い引退理由は、やはり怪我です。特に膝、腰、首の怪我は力士生命に直結します。手術とリハビリを繰り返しながら土俵に上がり続ける力士も多いですが、本来の相撲が取れなくなった時、多くの力士が引退を意識します。
貴景勝のように、生命に関わるような首の怪我を抱えながら戦い続けた例もあります。満身創痍の中で戦う姿は感動を呼びますが、医師からのドクターストップや、家族の願いを受けて決断することも少なくありません。
番付の陥落と気力の低下
「関取(十両以上)」と「幕下以下」では、待遇に天と地ほどの差があります。長年関取として活躍した力士が、怪我や不調で幕下に陥落し、そこから這い上がる気力を維持できずに引退を選ぶケースも非常に多いです。
「もう一度関取に戻る」という目標が達成できなくなった時、あるいは「これ以上落ちる姿を見せたくない」というプライドが、引き際を決める要因となります。
セカンドキャリアへの移行
親方株(年寄名跡)の空き状況や、取得のタイミングも引退時期に影響します。日本相撲協会に残って親方になるには、一定の実績と年寄名跡が必要です。名跡を取得できたタイミングで、余力を残して引退する力士もいます。
また、親方にならずに実業家やタレント、飲食店経営など、全く新しい分野への転身を考えて早めに引退を決断する若手も増えてきています。
引退後の第二の人生と親方としての役割
髷を切り落とした力士たちは、まわしをスーツや作業着に変え、それぞれの第二の人生を歩み始めます。引退後の進路は大きく分けて「協会に残る」か「協会を離れる」かの二つです。
特にファンにとって関心が高いのは、親方として相撲界に残った元力士たちの動向でしょう。彼らが担う重要な役割と、新たな挑戦について解説します。
部屋付き親方としての指導
多くの引退力士は、まずは所属していた部屋の「部屋付き親方」として指導者の道を歩みます。師匠(部屋のトップ)を補佐し、稽古場で胸を出したり、日常生活の指導を行ったりするのが主な仕事です。
自身の経験に基づいた技術指導はもちろん、怪我との付き合い方やメンタル面のケアなど、兄貴分としての役割も求められます。現役時代の実績がある親方の指導は、若手力士にとって大きな説得力を持ちます。
独立して部屋を興す
実績と人望のある親方は、将来的に独立して自分の部屋を持つことを目指します。貴景勝(湊川親方)のように、将来的な独立や部屋の継承を見据えて指導にあたるケースもあります。自分の理想とする力士を育てることは、親方にとって最大の夢です。
部屋の経営者としての手腕も問われるため、スカウト活動や後援会との付き合いなど、現役時代とは全く異なるスキルも必要になります。
協会外での活躍
相撲協会に残らなかった力士たちも、社会の様々な分野で活躍しています。元横綱や元大関がタレントや解説者としてメディアに出演したり、ちゃんこ料理店を開業したりするのは定番のコースです。
最近では、YouTuberとして相撲の魅力を発信したり、整体師や介護職として力士時代の経験を活かしたりする人も増えています。彼らの活躍は、現役力士にとってもセカンドキャリアの希望となります。
世代交代が進む大相撲の最新勢力図

ベテラン勢の引退は寂しいものですが、それは同時に新しいスターが誕生するチャンスでもあります。昨年から今年にかけての引退ラッシュにより、番付の上位層は大きく若返りました。
空いた席を埋めるように台頭してきた新世代の力士たちと、これからの大相撲の見どころについて整理しておきましょう。
大の里ら新世代の躍進
貴景勝らと入れ替わるようにして、大の里などの若手有望株が一気に番付を駆け上がりました。学生相撲出身のエリートや、身体能力の高い若手が幕内上位に定着し、優勝争いの常連となっています。
彼らはパワーだけでなく、スピードと技術を兼ね備えており、従来の相撲常識を覆すような取組を見せることもあります。新旧交代の象徴として、今後の相撲界を牽引していく存在です。
戦国時代の幕開け
絶対的な横綱が不在、あるいは休場がちな状況が続く中、誰が優勝してもおかしくない「戦国時代」が到来しています。実力が拮抗しており、毎場所のように優勝力士が変わる展開は、ファンにとっては目が離せない面白さがあります。
新大関や新関脇が次々と誕生し、番付の変動も激しくなっています。引退した名力士たちの穴を埋めるべく、次世代の覇権争いはますます激化していくでしょう。
次世代のスター候補たち
幕内だけでなく、十両や幕下にも将来を期待させる10代、20代前半の若手がひしめいています。親方となった元名力士たちが育てた弟子たちが、そろそろ関取として頭角を現してくる時期でもあります。
引退した力士の遺伝子を受け継ぐ「二世力士」や、同郷・同部屋の後輩たちに注目して応援するのも、大相撲の深い楽しみ方の一つです。
まとめ
昨年引退、あるいは断髪式を行った力士たちは、それぞれの個性で大相撲の一時代を築き上げた功労者ばかりです。貴景勝の不屈の闘志や妙義龍の華麗な技は、記録にもファンの記憶にも深く刻まれています。彼らが土俵に残した熱気は、確実に次の世代へと受け継がれています。
ベテランが去った後の土俵には、すでに新しい風が吹いています。引退した親方たちが育てる新たなスター候補や、チャンスを掴んで躍進する若手力士たちにぜひ注目してみてください。これからの大相撲観戦が、より一層味わい深いものになるはずです。



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