大相撲の土俵を彩る力士たちの美しい大銀杏。その髪を結い上げる専門職「床山(とこやま)」は、相撲界になくてはならない存在ですが、その実態はあまり知られていません。テレビ中継で映る姿に憧れを抱いても、具体的ななり方や条件がわからず、夢を諦めてしまう若者も少なくないのが現状です。
この記事では、床山になるための厳格な年齢制限や採用ルート、知られざる給料事情から階級制度までを網羅的に解説します。伝統文化を支える裏方としてのやりがいと、一人前の職人になるまでの厳しい道のりを理解することで、あなたが次に取るべき行動が明確になるはずです。
- 床山独自の採用条件と年齢制限
- 定員50名の壁と最新の求人事情
- 見習いから特等までの階級と給料
- 力士と共同生活を送る仕事のリアル
床山になるには?採用条件と19歳までの年齢制限
大相撲の床山になるための道は非常に狭く、限られた条件を満たした者だけに門戸が開かれています。一般的な就職活動とは異なり、相撲界独自のしきたりやルールが存在するため、事前に詳細な情報を把握しておくことが不可欠です。
ここでは、床山を目指す上で絶対に知っておかなければならない年齢制限や資格、採用までの具体的なプロセスについて解説します。理容師や美容師の免許が必要だと思われがちですが、実際には全く異なる基準が設けられているのです。
義務教育修了から19歳までの男子のみ
床山になるための最も重要な条件は年齢であり、義務教育を修了した満19歳までの男子と定められています。この年齢制限は非常に厳格で、20歳を超えてから床山を目指すことは原則として不可能です。高校卒業後すぐに決断するか、中学卒業と同時にこの道へ進むかの選択を迫られることになります。
理容師や美容師のような国家資格は一切不要ですが、その代わりに若いうちからの修行が求められる世界です。10代のうちに親元を離れ、相撲部屋という特殊な環境に飛び込む覚悟が必要とされます。
定員50名の壁と欠員補充のルール
日本相撲協会の規定により、床山の定員は50名と定められており、この枠に空きがない限り新規採用は行われません。力士の数に比べて床山の人数は非常に少なく、欠員が出た場合にのみ補充される形式が基本となっています。
ただし例外規定として、所属力士が12名以上いる部屋に床山が一人もいない場合に限り、定員枠を超えての採用が認められることがあります。そのため、床山志望者は常に各部屋の定員状況や引退情報をチェックし、タイミングを逃さないようにする必要があります。
相撲部屋への入門と師匠の推薦
床山になるには、まずは特定の相撲部屋に入門し、その部屋の親方(師匠)から日本相撲協会へ推薦してもらう必要があります。一般的な企業の採用試験のように、協会が公募を出して直接応募を受け付けるわけではありません。
まずは自分が入りたい部屋や、床山を募集している部屋に直接連絡を取り、見学や面談を経て入門の許しを得ることから始まります。親方が「この子なら修行に耐えられる」と判断し、協会に申請書類を提出して初めて、採用の土俵に乗ることができるのです。
日本相撲協会による面接と採用試験
部屋の親方からの推薦を受けた後、日本相撲協会による面接と健康診断が行われます。ここでは志望動機や適性、集団生活への順応性などが厳しく審査され、合格すれば正式に床山として採用されます。
採用試験といっても筆記試験で知識を問われるようなものではなく、人物重視の選考が行われる傾向にあります。相撲界という伝統社会のルールを守り、礼儀正しく振る舞えるかどうかが、技術以前に最も重視されるポイントとなります。
保護者の承諾書と保証人の確保
未成年での入門が基本となるため、本人だけでなく保護者の承諾書と保証人が必須となります。厳しい修行生活や特殊な環境での生活を親が理解し、応援してくれる体制が整っていないと、入門は認められません。
また、入門後は部屋での共同生活となるため、何か問題が起きた際に責任を持てる保証人の存在も重要です。家族としっかりと話し合い、相撲界へ入ることの意味や覚悟を共有しておくことが、スムーズな手続きの第一歩となります。
床山の仕事内容と1日のスケジュール
床山の仕事は単に髪を結うだけでなく、力士と生活を共にしながら部屋の運営を支える多岐にわたる業務を含みます。華やかな土俵上の大銀杏は、日々の地道な積み重ねと信頼関係の上に成り立っているのです。
本場所中と稽古期間中では生活リズムが大きく異なり、状況に応じた柔軟な対応が求められます。ここでは、床山が実際にどのような1日を過ごし、どのような役割を果たしているのかを具体的に紹介します。
朝稽古後の整髪と道具の手入れ
床山の朝は早く、稽古終わりの力士たちの髪を整えることから1日が始まります。激しい稽古で乱れた髪をときほぐし、鬢付け油を使って手際よく丁髷(ちょんまげ)を結い直していきます。
使用する櫛や元結(もとゆい)などの道具は、自分の手になじむように手入れを欠かさず、常に最高の状態を保たなければなりません。一人の力士にかける時間は限られているため、スピードと正確さの両立が求められる、まさに職人技の見せ所です。
本場所中の大銀杏と巡業帯同
本場所中、十両以上の関取には「大銀杏(おおいちょう)」と呼ばれる格式高い髪型を結うことが許されます。これは高度な技術を要する作業で、熟練の床山が時間をかけて美しく仕上げ、力士を土俵へと送り出します。
地方巡業の際は力士と共に全国を移動し、限られた設備や環境の中でいつも通りの仕事をこなさなければなりません。移動や宿泊の手配など、裏方としての業務もこなしつつ、力士が万全の状態で取組に臨めるようサポートします。
力士との共同生活と部屋の雑務
床山は力士と同じ部屋で寝食を共にし、ちゃんこ番の手伝いや掃除といった雑務も行います。特に若手のうちは、髪を結う技術の習得だけでなく、兄弟子や親方の身の回りの世話など、相撲界の礼儀作法を身につけることも重要な修行です。
力士と家族同然の付き合いをする中で、彼らの髪質や頭の形、性格までを熟知していきます。この深い信頼関係があるからこそ、力士は安心して自分の頭を預け、勝負の場に向かうことができるのです。
床山の給料・年収と階級制度
床山は相撲協会の職員という扱いになり、階級に応じた給与が支払われます。決して高給取りとは言えませんが、衣食住が保証されているため、生活費を抑えながら技術を磨くことができる環境です。
ここでは、気になる給料の仕組みや昇進の基準、そして最高位である特等床山への道のりについて詳しく見ていきます。長く勤め上げ、技術を高めていくことで得られる対価と名誉について理解を深めましょう。
階級別給与と各種手当の仕組み
床山の給与は基本給に加え、場所手当や結髪手当などが支給される仕組みになっています。初任給は手取りで十数万円程度と決して高くはありませんが、部屋での食費や家賃がかからないため、可処分所得はそれなりに確保できます。
階級が上がるごとに基本給もアップし、特等や一等といった上位の床山になれば、一般的なサラリーマン以上の年収を得ることも可能です。また、優勝力士の髪を結うなどの功績が認められれば、報奨金が出ることもあり、実力次第で収入を増やすチャンスがあります。
見習いから特等までの6段階評価
床山の階級は下から五等、四等、三等、二等、一等、そして最高位の特等という6段階に分かれています。入門から3年間は見習い期間とみなされ、その後五等床山として正式なキャリアをスタートさせるのが一般的です。
特等床山になれるのは、勤続45年以上かつ60歳以上で、特に成績優秀な者に限られるという非常に狭き門です。定員や厳しい審査があるため、長年勤め上げれば誰でもなれるわけではなく、選ばれた名工だけが到達できる地位なのです。
昇進基準と勤続年数の重要性
床山の昇進は基本的に勤続年数と技術力が基準となり、一定の年数を経るごとに昇格審査が行われます。例えば二等床山になるには勤続20年以上、一等床山には勤続30年以上が必要とされるなど、長い年月をかけた積み重ねが評価されます。
技術面では、大銀杏を美しく結えるかどうかが大きな評価ポイントとなります。一人前の技術を習得するには最低でも10年はかかると言われており、焦らず腐らず、日々の仕事を丁寧に積み重ねていく忍耐力が求められます。
床山に求められる適性とスキル
床山は単なる技術職ではなく、力士の精神的な支えともなる特殊な職業です。手先の器用さはもちろん必要ですが、それ以上に人間性や相撲文化への深い理解が求められる場面が多々あります。
ここでは、床山として長く活躍するために必要な適性やマインドセットについて解説します。技術は練習すれば身につきますが、向き不向きを左右する性格的な要素も事前に知っておくことが大切です。
手先の器用さと長時間の集中力
髪を結う作業は非常に繊細で、数ミリのズレが全体の美しさを損なうこともあるため、手先の器用さは必須です。特に大銀杏は、力士の激しい動きにも崩れない強度と、見た目の優美さを両立させなければならず、高度な指先の感覚が求められます。
また、何十人もの力士の髪を連続で結うこともあるため、長時間集中力を途切れさせない精神力も必要です。立ち仕事で腕を上げ続ける体力も不可欠であり、見た目以上にハードな肉体労働であることも覚悟しなければなりません。
コミュニケーション能力と気配り
床山は力士と一対一で向き合う時間が長く、彼らのコンディションや気分の変化を敏感に察知する能力が求められます。リラックスさせるような会話をしたり、時には黙って作業に徹したりと、相手に合わせたコミュニケーションが重要です。
部屋の中での共同生活を円滑に進めるための協調性や、周囲への気配りも欠かせません。自分の仕事だけでなく、部屋全体の空気を読み、力士たちが相撲に集中できる環境を作ることが、優れた床山の条件とも言えます。
伝統文化への深い理解と敬意
大相撲は日本の伝統文化そのものであり、床山はその伝統を形作る重要な役割を担っています。髷の形一つにも歴史や意味があり、それらを正しく理解し、次世代へと継承していく責任感が必要です。
師匠や先輩から受け継いだ技術を守りつつ、常に向上心を持って自分の技を磨き続ける姿勢が求められます。単なるファッションとしてのヘアスタイルではなく、神事としての相撲を支えているという誇りと敬意を持つことが、長く仕事を続ける原動力になります。
床山の将来性と現状の課題
相撲人気の回復とともに、床山の仕事にも注目が集まっていますが、一方でなり手不足や高齢化といった課題も抱えています。伝統を守りながらも、時代の変化に対応していくことが今後の床山界には求められています。
最後に、床山という職業の将来性や、これから目指す人が直面するであろう現状について解説します。厳しい現実を知った上で、それでも挑戦したいという強い意志を持つことが大切です。
なり手不足と技術継承の危機
少子化の影響や、修行の厳しさを敬遠する若者の増加により、床山のなり手は慢性的に不足している傾向にあります。定員枠はあるものの、実際には志願者が集まらず、技術の継承が危ぶまれている部屋も少なくありません。
一方で、これは本気で床山を目指す人にとってはチャンスとも言えます。熱意を持って門を叩けば、若いうちから多くの経験を積み、将来的に相撲界を背負って立つような重要なポジションを任される可能性が高まるからです。
職業としての安定性とやりがい
相撲協会に雇用される形となるため、福利厚生や身分保証の面では比較的安定している職業と言えます。相撲がなくならない限り床山の仕事もなくなることはなく、一度技術を身につければ一生モノのスキルとして活かすことができます。
何より、自分が結った大銀杏で力士が土俵に上がり、勝利を掴む瞬間を間近で見られることは、他の仕事では味わえない大きな喜びです。伝統文化の継承者として、歴史の一部になれるという誇りは、金銭以上の価値をもたらしてくれるでしょう。
新しい時代の床山像への期待
SNSなどを通じて床山の仕事が広く知られるようになり、海外からの関心も高まっています。今後は単に髪を結うだけでなく、相撲文化の魅力を世界に発信する伝道師としての役割も期待されるようになるかもしれません。
伝統を守りつつも、新しいツールや考え方を柔軟に取り入れ、より良い環境を作っていこうとする姿勢がこれからの床山には求められます。古い慣習にとらわれすぎず、次世代の相撲界を支える新しい風を吹き込む人材が待望されています。
まとめ:大相撲の床山を目指すあなたへ
床山になるには、19歳までという年齢制限や定員50名の狭き門を突破し、相撲部屋での厳しい修行生活に耐え抜く覚悟が必要です。しかし、その先には日本の伝統文化を支える誇り高い仕事と、力士たちと共に戦う熱い日々が待っています。
もしあなたが本気で床山を目指すなら、まずは各相撲部屋の情報を集め、見学や問い合わせを行うことから始めましょう。求人情報は待っているだけでは手に入りません。自ら行動を起こし、熱意を伝えることで、閉ざされた扉が開くこともあります。
理容師免許などの資格は不要ですが、手先の器用さを磨き、体力作りをしておくことは今からでもできます。日本の国技を陰で支える職人として、あなたもその一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。


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