大相撲中継を見ていると、まわしの色や髪型が違う力士たちが土俵に上がっていることに気づくはずです。
華やかな化粧まわしをつける関取とは異なり、幕下以下の力士には厳しい現実があることをご存知でしょうか。
実は、幕下の力士には毎月の「給料」が存在しません。
彼らがどのように生活し、何をモチベーションに土俵に上がっているのかを知ることは、相撲観戦をより深く楽しむための鍵となります。
- 幕下力士の具体的な収入額と仕組み
- 関取(十両以上)との圧倒的な待遇格差
- 厳しい環境でも力士が戦い続ける理由
この記事では、一般にはあまり知られていない幕下力士の懐事情と、角界の厳しい階級社会について詳しく解説します。
この知識を持てば、次回の相撲観戦がより味わい深いものになることは間違いありません。
幕下の給料事情とは?意外な収入源と生活を支える仕組みを公開
多くの人が驚く事実ですが、幕下以下の力士には月給という概念が存在しません。
日本相撲協会の規定において、給料(月額報酬)が支給されるのは十両以上の「関取」に限られているからです。
しかし、収入が完全にゼロというわけではなく、生活を維持するための手当や報奨金が用意されています。
ここでは、幕下力士が実際に手にしている金額とその内訳について、具体的な数字を交えて詳細に見ていきましょう。
場所ごとに支給される「場所手当」の現実
給料の代わりとして幕下力士に支給されるのが「場所手当」と呼ばれるものです。
これは奇数月に開催される本場所ごとに支給される手当で、年6回の収入機会となります。
現在の規定では、幕下力士の場所手当は1場所につき16万5000円です。
これを年6回受け取ると、年間の総支給額は99万円となり、月収に換算すると約8万円程度という計算になります。
この金額だけを見れば、一般社会のアルバイト収入よりも低い水準であることは否めません。
あくまで「力士養成員」としての修行期間であるため、生活費の補助という名目が強いのです。
勝ち越しや優勝で得られる報奨金
場所手当以外に現金収入を得るチャンスとして、本場所での成績に応じた報奨金があります。
幕下優勝を果たした場合には、50万円というまとまった賞金が授与されます。
また、優勝できなくても、勝ち越し(4勝以上)を決めた場合には少額ながら手当が出る部屋もあります。
これらは実力次第で手に入る臨時収入であり、力士たちの大きなモチベーションの一つとなっています。
しかし、幕下は関取昇進をかけた激戦区であり、勝ち越すこと自体が容易ではありません。
安定した収入源とは言えないため、やはり基本となる場所手当でのやりくりが中心となります。
衣食住の費用は基本的に無料
年収約100万円でどうやって生活しているのかと疑問に思うかもしれませんが、力士には特有の生活保障があります。
相撲部屋に所属している限り、家賃、食費、光熱費といった基本的な生活コストは一切かかりません。
部屋が用意するちゃんこ鍋などの食事は栄養満点で、生活必需品の多くも支給されます。
そのため、手にした現金の多くを自分の小遣いや貯蓄に回すことが可能です。
とはいえ、個人的な買い物や外出、携帯電話代などは自己負担となります。
限られた手当の中でやりくりする必要があるため、決して裕福な生活とは言えません。
幕下と三段目以下での手当の違い
幕下は「力士養成員」のトップですが、その下には三段目、序二段、序ノ口という階級があります。
場所手当の金額も階級によって細かく設定されており、下に行けば行くほど金額は下がります。
三段目の場所手当は11万円、序二段は8万円、序ノ口は7万7000円です。
幕下の16万5000円と比較すると、幕下に上がるだけでも収入面では大きなステップアップであることがわかります。
このわずかな金額差も、下の階級の力士にとっては死活問題です。
一つでも番付を上げることが、直接的に手取り額を増やすことにつながるシビアな世界です。
部屋や後援会からの「ご祝儀」事情
公式な手当以外に、所属する部屋の方針や後援会(タニマチ)との関係によって「ご祝儀」が入ることがあります。
例えば、誕生日の祝いや、勝ち越した際のお小遣いとして現金を渡されるケースです。
ただし、これはあくまで非公式なものであり、部屋の規模や人気によって大きな差があります。
人気力士を多く抱える部屋や、歴史ある部屋ではご祝儀の機会も多い傾向にあります。
逆に、創設間もない部屋や小規模な部屋では、こうした臨時収入はあまり期待できません。
運や環境にも左右されますが、これも力士の懐事情を支える重要な要素の一つです。
天国と地獄!十両と幕下の待遇格差を徹底比較
相撲界において「十両と幕下の差は天と地ほどある」とよく言われます。
わずか一枚の番付の違いが、年収や生活環境に劇的な変化をもたらすからです。
関取と呼ばれる十両以上の地位に昇進すると、日本相撲協会から毎月の月給が支給されるようになります。
ここでは、具体的な金額差や待遇の違いを比較し、なぜ力士たちが必死に関取を目指すのかを解説します。
年収にして10倍以上の圧倒的な差
十両に昇進すると、月額約110万円の給与が支給されるようになります。
これに加えて年2回の賞与(ボーナス)や各種手当を含めると、年収は1300万円を超えます。
幕下の年収が約100万円であることを考えると、その差は10倍以上という驚愕の数字です。
プロ野球やサッカーでも一軍と二軍の差はありますが、これほど劇的に待遇が変わるスポーツは稀でしょう。
この経済的な安定こそが、力士たちが血の滲むような稽古に耐える最大の理由の一つです。
関取になれるかなれないかで、その後の人生設計までもが大きく変わってしまいます。
付き人が付くか、雑用をするかの違い
待遇の差はお金だけではなく、身の回りの世話や日常業務にも現れます。
関取になると「付き人」が付き、身の回りの世話や荷物持ち、着替えの手伝いなどをしてもらえるようになります。
一方、幕下以下の力士は「付け人」として関取の世話をする側に回らなければなりません。
掃除、洗濯、ちゃんこ番などの雑用はすべて幕下以下の力士の仕事です。
幕下上位の実力者であっても、関取になれない限りは雑用から解放されることはありません。
土俵上の強さだけでなく、生活のすべてにおいて明確な身分差が存在します。
大銀杏と化粧まわしの特権
見た目の変化も大きく、関取になると大銀杏(おおいちょう)という正式な髪型を結うことが許されます。
また、土俵入りの際には色鮮やかな化粧まわしを締め、多くの観客の注目を浴びます。
幕下力士は丁髷(ちょんまげ)であり、場所中は黒い木綿のまわしを締めて土俵に上がります。
化粧まわしや大銀杏は、力士として一人前になった証であり、全相撲人の憧れです。
テレビ中継でも、幕下の取組はダイジェストで流されることが多いのに対し、十両からは全取組が放送されます。
社会的認知度や名誉の面でも、その格差は計り知れないものがあります。
懸賞金や退職金制度に見るプロの厳しさ
関取と幕下以下の格差は、日々の給料や待遇以外にも様々なシステムに組み込まれています。
土俵上で勝った時に受け取る懸賞金や、引退後の生活を支える退職金制度もその一つです。
プロスポーツ選手として稼げる期間は短いため、これらの制度の違いは生涯年収に大きく影響します。
ここでは、一般には見えにくい金銭事情の裏側にスポットを当てて解説します。
土俵上のボーナス「懸賞金」の有無
テレビでよく見る、勝った力士が手刀を切って受け取る懸賞金は、原則として幕内・十両の取組にしか懸けられません。
1本あたり手取りで3万円の現金収入となる懸賞金は、関取にとって大きな臨時収入です。
幕下の取組に懸賞金がかかることは極めて稀で、話題性のある特定の取組に限られます。
どれだけ素晴らしい相撲を取って勝利しても、幕下力士が懸賞金の束を手にすることはありません。
人気力士になれば1場所で数百万単位の懸賞金を稼ぐことも珍しくありません。
この「勝利即現金」というシステムも、関取という地位にのみ許された特権なのです。
引退後に受け取る養老金の仕組み
力士が引退する際に支払われる「養老金(退職金)」の算定基準も、関取経験の有無が大きく関わります。
養老金は在位した場所数や地位に応じてポイント加算され、金額が決定される仕組みです。
幕下以下で長く相撲を取っても、その期間の加算ポイントは非常に低く設定されています。
一方、関取在位期間のポイントは高く、短期間でも関取を務めれば退職金の額は跳ね上がります。
長く現役を続けても、幕下のままで引退すれば退職金は微々たるものにしかなりません。
引退後のセカンドキャリアを考えても、一度でも関取に上がっておくことは極めて重要です。
持ち給金制度による累積収入
相撲界には「持ち給金」という独特の報奨金制度があり、勝ち越すたびに加算されていきます。
この累積額に基づいた手当が場所ごとに支給されますが、実際に現金として受け取れるのは関取になってからです。
幕下以下の期間に積み上げた実績(持ち給金)は記録としては残りますが、支給は保留状態となります。
十両に昇進した瞬間、それまで積み立ててきた努力が初めて現金化され、給与に上乗せされます。
つまり、幕下時代の勝ちは将来への「貯金」であり、関取になれなければ引き出せない預金のようなものです。
このシステムもまた、力士たちに関取昇進への執念を燃やさせる要因となっています。
幕下力士の1日と過酷な生活環境
給料が出ない上に雑用もこなさなければならない幕下力士の日常は、想像以上に過酷です。
稽古と生活の両立は肉体的にも精神的にも大きな負担となり、多くの若者がこの壁の前で苦しみます。
しかし、この共同生活こそが力士としての心技体を育む場でもあります。
ここでは、幕下力士がどのようなスケジュールで1日を過ごしているのかを紹介します。
早朝からの稽古とちゃんこ番
幕下力士の朝は早く、関取衆が稽古場に降りてくる前に準備を整え、自身の稽古を始めます。
関取が来れば胸を借りることもありますが、基本的には関取の稽古の補助や準備運動が中心です。
稽古が終わるとすぐに「ちゃんこ番」として、全員分の食事を作る作業に入ります。
買い出し、調理、配膳まで全てをこなし、関取が食事を終えるまで自分たちは食べることができません。
空腹と疲労の中で給仕を行い、最後に残った料理を食べることが許されます。
この厳しい上下関係と役割分担が、相撲部屋という組織を支える基盤となっています。
大部屋での集団生活とプライバシー
住環境においても、関取には個室が与えられますが、幕下以下は大部屋での集団生活が基本です。
広間のような部屋で布団を並べて寝起きし、プライベートな空間はほとんどありません。
自分の荷物は最低限に抑え、常に周囲に気を配りながら生活する必要があります。
いびきや生活音、人間関係のストレスも溜まりやすい環境ですが、逃げ場はありません。
この環境から抜け出し、自分だけの個室を手に入れるためにも、番付を上げるしかないのです。
「個室で寝たい」という単純な欲求が、意外にも大きな原動力になることがあります。
兄弟子としての指導的立場
幕下は「力士養成員」の中では最上位であるため、三段目以下の力士への指導も重要な役割です。
兄弟子として礼儀作法やちゃんこの作り方、相撲の技術を後輩に教えなければなりません。
自分自身の稽古や関取の世話に加え、後輩の面倒を見る中間管理職のような立場でもあります。
精神的なプレッシャーも大きく、ここで人間としての成長も求められます。
上には関取という絶対的な存在があり、下からは若手が突き上げてくる。
幕下という地位は、実力だけでなく精神力も試される、まさに修羅場と言えるでしょう。
関取への道!昇進条件と成功へのルート
過酷な幕下生活から抜け出し、夢の関取ライフを手に入れるためには、結果を出し続けるしかありません。
しかし、十両への昇進枠は非常に狭く、実力者がひしめく幕下上位での戦いは熾烈を極めます。
どのような条件を満たせば昇進できるのか、そして近年増えているエリートコースについても触れます。
成功へのルートを知ることで、番付表を見る目が変わるはずです。
十両昇進に必要な成績の目安
十両から幕下に陥落する人数枠に合わせて昇進人数が決まるため、明確な「合格ライン」はありません。
しかし、一般的には幕下筆頭や5枚目以内で勝ち越すことが昇進の必須条件とされています。
特に幕下15枚目以内は「十両昇進圏内」と呼ばれ、ここでの全勝や好成績は編成会議で強くアピール材料になります。
幕下優勝を果たせば、番付にもよりますが昇進の可能性は極めて高くなります。
逆に、わずか1敗で昇進を逃し、涙を飲む力士も後を絶ちません。
運とタイミング、そしてここ一番での勝負強さが求められる、非常に狭き門です。
学生相撲出身者の「付け出し」制度
近年では、大学相撲や実業団で実績を残した選手が「幕下付け出し」としてデビューするケースが増えています。
これは序ノ口からのスタートを免除され、最初から幕下(10枚目や15枚目など)で土俵に上がれる制度です。
彼らは最初から関取に近い位置でスタートできるため、スピード出世の可能性が高まります。
しかし、プロの壁は厚く、エリートとして入門しながらも幕下で長く足踏みするケースも少なくありません。
付け出し資格を持つ力士の存在は、叩き上げの力士にとっても大きな脅威であり刺激です。
異なるバックグラウンドを持つ力士たちが激突するのも、幕下上位の面白いところです。
一度落ちて這い上がる「返り十両」
一度は関取になったものの、怪我や不調で幕下に陥落する力士も多くいます。
彼らは「元関取」としてのプライドと意地をかけ、再び大銀杏を結うために必死で戦います。
幕下の土俵には、これから上がる若手と、再起をかけるベテランが混在しています。
この新旧のぶつかり合いが、幕下相撲をドラマチックで熱いものにしています。
一度良い待遇を知っている分、陥落した時の精神的なダメージは計り知れません。
そこから這い上がり、再び関取の座を掴んだ力士には、観客からも温かい拍手が送られます。
まとめ
幕下力士の給料事情と、その背景にある相撲界の厳格な階級社会について解説しました。
華やかな大相撲の舞台裏には、ハングリー精神を持って戦う男たちのリアルな姿があります。
月給ゼロ、大部屋生活、過酷な雑用という環境は、現代社会では信じられないほど厳しいものです。
しかし、その厳しさがあるからこそ、関取という地位が輝き、夢を掴んだ時の喜びはひとしおです。
- 幕下以下は月給ゼロ、年間の場所手当は約100万円
- 十両(関取)に昇進すると年収は1300万円超え
- この「天国と地獄」の格差が力士のハングリー精神を育む
次に相撲を見る時は、ぜひ午後2時頃から行われる幕下の取組にも注目してみてください。
人生をかけて土俵に上がる彼らの気迫と、一取組ごとの重みを感じることができるはずです。


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