大相撲の世界において、華やかな土俵入りを行う関取たちと、まだ髷も結えない若手力士たちとの間には、想像を絶する待遇の格差が存在することをご存知でしょうか。特に番付の最下層である「序の口」の力士には、私たちが一般的にイメージする毎月の「給料」というものが一切支払われません。彼らはどのようにして生活を維持し、過酷な稽古と増量に励んでいるのか、その実態はあまり知られていないのが現状です。
この記事では、序の口力士の懐事情に焦点を当て、給料の代わりとなる「場所手当」の具体的な金額や、衣食住が保証される相撲部屋独自のシステムについて詳しく解説します。厳しい下積み時代を支える金銭的な仕組みを知ることで、大相撲観戦がより味わい深いものになるはずです。まずは、階級による給与の有無を整理した以下の表をご覧ください。
- 横綱〜十両(関取):月給あり、ボーナスあり、個室あり
- 幕下以下(養成員):月給なし、場所手当のみ、大部屋生活
- 序の口:月給なし、最低額の場所手当、雑用全般
驚愕の事実!序の口に給料はなく場所手当のみ?
大相撲の階級において「序の口」とは、新弟子が前相撲を通過して最初に名前が載る番付の地位であり、力士としての第一歩を踏み出した段階を指します。しかし、この段階では日本相撲協会から「力士養成員」として扱われるため、プロのアスリートであっても毎月の固定給は1円も支給されません。一般的なサラリーマンのような月給制が適用されるのは、十両以上の「関取」になってからという厳しい掟が存在します。
給料がないとはいえ、彼らが無収入で生活しているわけではなく、本場所ごとに支給される「場所手当」などが貴重な現金収入となっています。ここでは、序の口力士が得られる具体的な収入の内訳と、その金額規模について詳細に掘り下げていきます。夢を追う若者たちが直面する、シビアな金銭事情を確認していきましょう。
毎月の固定給与が存在しない理由
序の口を含む幕下以下の力士が「養成員」と呼ばれるのは、文字通り一人前の力士になるための修行期間であると位置づけられているからです。相撲協会からの月給は発生しませんが、これは彼らがプロではないという意味ではなく、修業中の身であるため生活の面倒は所属する相撲部屋が見るという建前があるためです。
一般社会で言えば、住み込みの修業生や内弟子といった立場に近く、労働の対価としての賃金よりも、技術習得と身体作りが最優先される期間となります。月給がないことは、ハングリー精神を養い、早く関取へ昇進したいという強烈なモチベーションを生むための装置とも言えます。
唯一の定期収入である場所手当の金額
月給がない序の口力士にとっての命綱は、年6回開催される本場所ごとに支給される「場所手当(力士褒賞金)」です。現在の規定では、序の口力士の手当は1場所につき約7万7000円程度とされており、これが年6回支給されるため、年間の合計額は約46万円程度となります。
この金額は、2ヶ月に一度の支給額としては非常に少なく感じるかもしれませんが、彼らにとっては自由になる唯一の現金です。この手当の中から、休日の外出費や個人的な嗜好品の購入、実家への帰省費用などをすべて賄わなければなりません。
勝ち越しで得られる僅かな奨励金
場所手当以外に現金を手にするチャンスとして、本場所での成績に応じた「奨励金」が存在します。7番相撲を取る幕下以下において、4勝以上を挙げて「勝ち越し」を決めると、数千円程度の奨励金が支給される仕組みになっています。
金額としては決して大きくありませんが、自身の努力が直接的な報酬として返ってくるため、若手力士にとっては大きな励みとなります。一勝することの重みは、番付を上げるためだけでなく、日々のジュース代や夜食代を確保するためにも非常に重要な意味を持つのです。
序の口優勝で得られる賞金
各段の優勝者には賞金が出ますが、序の口優勝の場合、その金額は10万円と定められています。幕内優勝の1000万円と比べると雲泥の差ですが、年収が50万円前後の序の口力士にとって、10万円の臨時収入は非常に大きな金額と言えるでしょう。
ただし、序の口には怪我で番付を下げた実力者や、学生相撲出身のエリートが混在していることも多く、新弟子が簡単に優勝できるものではありません。この賞金を手にするためには、並み居るライバルたちを倒し、7戦全勝もしくはそれに近い成績を残す必要があります。
年収換算した場合の厳しい現実
これまで挙げた場所手当や多少の奨励金を合算しても、序の口力士の平均的な「年収」は50万円から60万円程度に留まります。これは日本の最低賃金を大きく下回る水準ですが、税法上や雇用契約上の扱いが特殊であるため、法的な問題にはなりません。
この数字だけを見ると生活が破綻しているように思えますが、彼らには家賃や食費がかからないという特殊な事情があります。現金収入の少なさは、裏を返せば「お金を使う暇がないほど稽古に打ち込む時期」であることを象徴しているのです。
給料ゼロでも生活できる力士の衣食住システムとは?
年収数十万円という数字だけを見れば、現代日本で生活していくことは不可能に思えますが、相撲界にはそれを可能にする伝統的なシステムが完備されています。相撲部屋という組織は、所属する力士の衣食住をすべて丸抱えで保障する、一種の共同生活体として機能しています。
親方(師匠)は、弟子たちを預かる代わりに彼らの生活費を負担し、一人前の関取に育て上げる義務を負っています。ここでは、現金収入が極端に少ない序の口力士たちが、どのようにお金の心配をせずに日々の生活を送っているのか、その具体的な仕組みについて解説します。
食費がかからないちゃんこ制度
力士にとって身体は資本であり、食事は稽古と同じくらい重要な仕事の一つとされています。相撲部屋では毎日大量の「ちゃんこ」が作られ、力士たちは朝と昼の2回(部屋により異なる)、栄養満点の食事を無料で腹いっぱい食べることができます。
お米や肉、野菜などの食材費はすべて部屋の経費や後援会からの差し入れで賄われているため、力士が食費を負担することはありません。どれだけ大食漢であっても食いっぱぐれる心配がない環境は、身体を大きくする必要がある若手力士にとって最強の福利厚生と言えます。
家賃光熱費ゼロの部屋住み生活
序の口力士は全員、相撲部屋の中にある大部屋で共同生活を送ることが義務付けられています。この生活において、家賃や水道光熱費といった固定費は一切徴収されず、寝具や生活に必要な最低限の設備も部屋から提供されます。
プライベートな空間はほとんどなく、大部屋で兄弟子たちと寝食を共にすることは精神的なストレスになる場合もありますが、経済的な負担はゼロです。東京の一等地にある相撲部屋であっても、住居費がかからない点は、地方出身の若者にとって大きな安心材料となります。
着るものに困らない浴衣と着物
力士の正装である着物や浴衣、履物についても、基本的には部屋から支給されるか、兄弟子のお下がりをもらう文化が根付いています。関取になると高級な着物を自費で仕立てることもありますが、序の口のうちは高価な衣服を持つ必要も、それを着る機会もありません。
また、外出時も力士は着物や浴衣の着用が義務付けられているため、流行の私服を購入する必要がなく、被服費もほとんどかかりません。このように、衣食住のすべてにおいて「お金を使わなくても生きていける」環境が、相撲部屋には整っているのです。
関取になれば天国!給料が発生する境界線とは?
序の口から始まり、序二段、三段目、幕下と番付を上げていき、ついに「十両」に昇進すると、力士の待遇は劇的に変化します。十両以上の関取になると、日本相撲協会から毎月の月給が支給されるようになり、その金額は一般的なサラリーマンの平均月収を遥かに凌駕します。
まさに「天国と地獄」ほどの差があるこの境界線こそが、全ての力士が死に物狂いで目指す目標ラインです。ここでは、関取になることで得られる金銭的なメリットと、それによって生活がどのように一変するのかを比較していきます。
十両昇進で月給110万円超え
十両に昇進した瞬間、月給は約110万円(2025年時点の目安)となり、年収ベースではボーナスを含めて1500万円近くに達します。序の口時代の年収約50万円と比較すると、その差は30倍以上となり、一夜にして高額所得者の仲間入りを果たすことになります。
この圧倒的な格差こそが、相撲界における実力主義の象徴であり、若手力士たちのハングリー精神を支える源泉です。関取になれば、個室が与えられ、結婚して部屋の外に住むことも許されるなど、金銭面以外でも自由と権利が手に入ります。
付き人への心付けと懸賞金
関取になると、本場所の取組に企業からの「懸賞金」がかけられるようになり、勝利すれば手取りで1本あたり3万円の現金を受け取ることができます。人気力士になれば、1場所で数百万円の懸賞金を獲得することも珍しくなく、月給以外の副収入も桁違いになります。
また、関取は自分の身の回りの世話をしてくれる付き人(幕下以下の力士)に対し、小遣いとして「心付け」を渡す慣習があります。かつて自分も貰う側だった立場から、与える側へと変わることで、力士としての責任感と自覚がより一層芽生えていくのです。
番付一枚の違いが人生を変える
相撲界において「幕下筆頭」と「十両」の間には、番付表の上ではたった一枚の違いしかありませんが、待遇面では雲泥の差があります。幕下までは大部屋での共同生活と無給の奉公が続きますが、十両になれば高給取りの名士として扱われます。
怪我や不調で十両から幕下に陥落すれば、再び給料ゼロの生活に逆戻りするという過酷な現実も待ち受けています。この「天国と地獄」の境界線を巡る攻防こそが、大相撲の本場所における最も熱く、残酷なドラマを生み出しているのです。
お金以外の厳しい現実!序の口力士の役割とは?
序の口力士の生活が厳しいのは、金銭面だけではありません。彼らは「力士養成員」として、稽古以外にも相撲部屋の運営に関わる膨大な雑務をこなす義務を負っています。朝早く起きてから夜寝るまで、自分の時間などほとんどないのが実情です。
これらの雑務は、社会人としての礼儀作法を学ぶ場でもありますが、肉体的・精神的な負担は計り知れません。ここでは、給料の出ない序の口力士たちが日々こなしている、土俵外での知られざる役割と業務について解説します。
早朝からのちゃんこ番と掃除
序の口力士の朝は早く、稽古の前に土俵の整備や部屋の掃除、そして兄弟子たちのためのちゃんこ作り(ちゃんこ番)から始まります。数十人分の食事を用意し、配膳し、後片付けをする作業は重労働であり、これらを稽古の合間に行わなければなりません。
料理の腕前も求められるため、相撲の強さとは関係のないスキルを磨く必要もありますが、これは将来独立した際の糧にもなります。彼らが作るちゃんこが美味しくなければ部屋の士気に関わるため、新人といえども責任重大なポジションを任されているのです。
兄弟子の身の回りの世話
関取や兄弟子の着替えを手伝ったり、背中を流したり、買い出しに行ったりするのも、序の口や序二段といった若手力士の重要な仕事です。特に巡業中などは、関取の荷物持ちや移動の手配など、マネージャーのような役割も求められます。
厳しい上下関係の中で、理不尽に感じるような用事を言いつけられることもありますが、これも相撲社会の修行の一環とされています。兄弟子の世話を通じて相撲の技術や心構えを盗み、可愛がられることで強くなっていくという側面も持っています。
精神力を鍛える下積み期間
こうした雑務の山は、力士たちの肉体を疲弊させるだけでなく、精神的なタフさを試す場としても機能しています。相撲は心技体が揃って初めて勝てる競技であり、理不尽な環境下でも腐らずに努力を続けられる精神力が求められます。
多くの新弟子がこの厳しい下積み生活に耐えきれずに引退していきますが、それを乗り越えた者だけが関取への切符を掴むことができます。雑巾がけ一つにも魂を込める姿勢こそが、土俵上での粘り腰や、苦しい場面での底力に繋がっているのです。
まとめ
序の口力士には毎月の給料が存在せず、年6回の場所手当(1回約7万7000円)と、わずかな奨励金のみで生活しているのが現実です。年収にして約50万円という厳しい経済状況ですが、相撲部屋が衣食住のすべてを保障するシステムにより、生活費の心配をせずに相撲に打ち込むことが可能となっています。この環境は、ハングリー精神を養い、高給取りである関取を目指すための強力な動機付けとして機能しています。
華やかな土俵の裏側には、雑務に追われながらも夢を追う、若き力士たちの汗と涙が染み込んでいます。次回の本場所を観戦する際は、まだ髷も結えない序の口力士たちの取り組みにも注目してみてください。彼らが背負っている過酷な背景と、一勝にかける必死な姿を知ることで、大相撲の深淵な魅力をより一層強く感じることができるはずです。


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