大相撲の土俵を支えているのは力士だけではありません。行司や呼出、床山といった裏方たちの存在があり、彼らの給料事情もまた厳格な階級社会によって決められているのです。
華やかな土俵の陰で働く彼らは一体どれくらい稼いでいるのか、力士と同じように一獲千金を狙える世界なのか、その実態はあまり知られていません。この記事では、相撲界の裏方たちの知られざる懐事情に迫ります。
- 行司と呼出の階級別給料テーブル
- 床山の技術と年収の関係
- 元力士が就く若者頭と世話人の待遇
相撲の裏方の給料事情とは?力士とは異なる収入システム
大相撲の世界では力士だけでなく、行司や呼出といった裏方にも厳格な番付が存在し、それに基づいて給料が決定されています。彼らは日本相撲協会の職員という扱いであり、力士とは異なる給与体系で生活しているのが特徴です。
力士が幕下以下では月給をもらえないのに対し、裏方は入門したその月から固定の月給が支給される仕組みになっています。ここでは裏方全体の給料システムと、その特殊な待遇について詳しく解説していきます。
力士は場所手当だが裏方は月給制
最大の違いは、力士が十両に関取として昇進するまで月給が出ないのに対し、裏方は序ノ口格などの見習い期間から月給が出る点です。これは彼らが相撲協会の専門職として採用され、技術を磨く長い期間を保障するための制度だといえます。
ただし、入門直後の給料は非常に低く設定されており、一般的な新卒初任給と比べてもかなり低い水準からスタートします。衣食住は部屋が保証してくれるとはいえ、経済的な自立には長い年月が必要となるのが現実です。
このように裏方は安定した「月給取り」である一方、実力次第で青天井に稼げる力士ほどの爆発力はありません。それでも定年まで勤め上げれば退職金も出るため、堅実な職業人生を送ることが可能です。
行司と呼出と床山の階級社会
裏方の給料はすべて階級(格)によって細かく規定されており、年功序列と実力の両面で昇進が決まっていきます。行司であれば「立行司」を頂点に、呼出なら「立呼出」、床山なら「特等床山」が最高位となります。
階級が上がるごとに基本給ベースの「本俸」が数万円単位で上がっていき、役職手当なども加算されるようになります。昇進は基本的に年1回行われる会議で決定されますが、空きポストがないと上がれないこともあります。
最高位まで登り詰めれば年収は1000万円を超えることもありますが、そこに至るまでには40年以上のキャリアが必要です。まさに忍耐と継続が評価される、日本的な職人の給与体系が色濃く残っています。
賞与や各種手当の存在
裏方にも一般企業と同様に賞与(ボーナス)が支給されており、これは給料の数ヶ月分に相当する重要な収入源です。また、本場所ごとに支給される手当や、地方巡業に参加した際の日当なども加算されます。
特に衣装や道具にお金がかかる行司には「装束補助費」などが支給され、職種特有の出費を補填する制度があります。呼出にも土俵築きなどの重労働に対する手当が含まれており、仕事内容に応じた配慮がなされています。
しかし、若手のうちは手当を含めても手取り額は少なく、お小遣い程度にしかならないことも珍しくありません。親方や先輩からの心付け(チップ)が生活の助けになることも多く、人付き合いも重要なスキルです。
退職金と福利厚生の仕組み
相撲協会の協会員として定年(65歳)まで勤め上げれば、勤続年数や功績に応じた退職金が支払われます。力士のように短期間で引退して第二の人生を探すのではなく、一生の仕事として全うする人が多いのが特徴です。
福利厚生として健康保険や年金への加入はもちろん、部屋での食事や住居が提供されるため、生活コストは極端に低く抑えられます。そのため、若い頃の給料が安くても、無駄遣いをしなければ将来のための貯蓄は可能です。
ただし、部屋によっては個室が与えられるまでの期間が長く、プライベートな空間を確保しにくいという側面もあります。経済的な安定と引き換えに、集団生活の規律を守り続ける精神力が求められる環境です。
厳しい下積み時代の極貧生活
裏方の入門直後は「見習い」扱いとなり、給料は月額1万円台から数万円程度という非常に厳しい数字からスタートします。この金額だけで生活することは不可能であり、実家からの援助や部屋からの小遣いで凌ぐことになります。
10代で入門して最初の数年間は、修行期間として経済的な豊かさとは無縁の生活を送らなければなりません。同世代がアルバイトや就職で稼ぐ中、ひたすら技術を磨き、兄弟子の世話をする日々に耐える必要があります。
この下積み時代に辞めてしまう若者も少なくありませんが、ここを乗り越えた者だけが一人前の技術者として認められます。給料が人並みになる頃には、相撲界になくてはならない存在へと成長しているのです。
行司の給料は最高いくら?装束代の負担も大きい
行司は土俵上の勝負を裁くだけでなく、番付書きや場内アナウンス、巡業の輸送係など多岐にわたる業務をこなしています。その給料は裏方の中では比較的恵まれていますが、格式高い装束を揃えるための出費も伴います。
最高位である立行司になれば、年収はかなりの高額になりますが、そこには相応の責任と品格が求められます。ここでは行司の具体的な給料テーブルと、華やかな衣装の裏にある金銭事情について解説します。
立行司の年収は1000万超えも
行司の最高位である「木村庄之助」や「式守伊之助」といった立行司クラスになると、月額の基本給だけで40万円から50万円程度になります。これに各種手当や賞与を加えると、年収は1000万円を超えると推定されています。
また、立行司は横綱の土俵入りを先導したり、結びの一番を裁いたりするため、テレビへの露出も多くなります。そのため後援会がつくこともあり、個人的なご祝儀などの副収入も期待できる立場といえるでしょう。
しかし、立行司は軍配差し違え(判定ミス)をした際に進退伺いを出すほどの重責を担っています。高収入は、そのプレッシャーと長年の貢献に対する対価であり、誰もが到達できる領域ではありません。
階級別の基本給テーブル詳細
行司の給料は細かく階級分けされており、幕下格以下では数万円、十両格で10万円台から20万円未満、幕内格で20万円から30万円台となります。三役格になると月給30万円後半から40万円近くになり、一般の管理職並みです。
十両格に昇進すると一人前の行司として認められ、名前入りの装束を着ることが許されるようになります。ここが給与面でも大きな分岐点となり、生活レベルも一気に向上するタイミングだといわれています。
逆に言えば、幕下格以下の行司は30代になっても給料が低く抑えられている場合があり、生活は楽ではありません。行司の世界もまた、完全なる年功序列と階級社会によって厳しく管理されているのです。
装束や軍配は自費か支給か
行司が身につける美しい装束や軍配は、基本的には協会からの支給ではなく、自前で用意するか後援者からの贈答品を使用します。特に昇進時には新しい装束を新調する必要があり、一着数十万円から百万円以上かかることもあります。
協会からは「装束補助費」として階級に応じた手当(数万円程度)が出ますが、これだけですべてを賄うのは困難です。そのため、行司にとって有力な後援者を見つけることは、出世して良い装束を着るためにも不可欠な要素です。
若手のうちは先輩のお下がりを使わせてもらったり、部屋の親方が用意してくれたりすることもあります。華やかな見た目とは裏腹に、その維持管理には多額の費用と、周囲への気配りが必要な職業なのです。
呼出の給料と仕事内容のバランス
呼出(よびだし)は力士の名前を呼び上げるだけでなく、土俵作り、太鼓打ち、懸賞幕の掲揚など、現場のあらゆる雑務をこなします。その仕事量は非常に多く、「相撲界で最も忙しい職種」と言われることもあります。
そんな呼出の給料もまた階級制ですが、その金額は仕事のハードさに比して決して高いとは言えない側面もあります。ここでは呼出の給与実態と、彼らが担う重要な役割への対価について掘り下げていきます。
立呼出と序ノ口呼出の格差
呼出のトップである「立呼出」になると、行司の立行司と同様に幹部としての待遇を受け、給料も高水準になります。一方、入門したての序ノ口呼出は月給1万円台からのスタートとなり、その格差は天と地ほどあります。
呼出もまた、長い下積み期間を経て少しずつ昇給していくシステムであり、若手のうちは金銭的な余裕は全くありません。土俵作りなどの肉体労働も若手が中心となって行うため、体力的な負担と給料が反比例している時期です。
しかし、十両呼出、幕内呼出と昇進していくにつれて、呼び上げる声にも技術と風格が求められるようになります。ベテランになれば指導的立場となり、給料も安定してきますが、そこまで残れる人は多くありません。
土俵築きなどの特殊手当
呼出の重要な仕事のひとつに、本場所や巡業先での土俵作り(土俵築き)がありますが、これには専門的な技術が必要です。この作業に対しては通常業務の一環とみなされつつも、状況に応じて手当や日当が出る場合があります。
また、太鼓の技術や相撲甚句(すもうじんく)の喉を披露することで、巡業先などでチップを受け取る機会もあります。これらは給与明細には載らない臨時収入として、呼出たちの励みになっているといわれています。
彼らは「土俵の整備士」とも呼べるプロフェッショナルであり、その技術なしに相撲興行は成立しません。給料の額面以上に、自分たちの手で舞台を作り上げるという職人としてのプライドが、彼らを支えています。
懸賞金は呼出には入らない
取組の前に呼出が企業の懸賞旗を持って土俵を回りますが、あの懸賞金は勝った力士の手に渡るもので、呼出には入りません。呼出はあくまで広告を掲示して回る役割であり、その作業に対する直接的な報酬はないのです。
ただし、多くの懸賞金がついた一番を担当することは名誉なことであり、テレビに映る機会も増えます。人気力士の取組を担当できるような地位になれば、それだけ呼出としての評価も高まっている証拠です。
懸賞金自体はもらえなくても、部屋の関取が勝って懸賞金を得た際には、ご祝儀をもらえることがあります。このように、力士との良好な関係性が、呼出の懐事情を潤す一つの要因にもなっています。
床山の給料は技術職としての評価
大銀杏(おおいちょう)を結う床山(とこやま)は、相撲界における美容師のような存在であり、高度な専門技術を持つ職人です。彼らの給料は技術ランクによって明確に定められており、腕一本で評価される世界です。
力士の髪を結えるようになるまでには長い修行が必要で、その技術習得の過程がそのまま給料の昇給に直結します。ここでは床山の給与体系と、特等床山と呼ばれる最高ランクの待遇について見ていきます。
特等床山の給料水準
床山の最高位である「特等床山」の基本給は30万円台後半から40万円程度とされており、行司や呼出のトップとほぼ同水準です。このクラスになると横綱や大関の大銀杏を結うことが許され、その技術は国宝級とも言えます。
特等床山になれる人数は限られており、定員や年齢の制限もあるため、誰もが到達できる地位ではありません。しかし、ここまで上り詰めれば相撲界の重鎮として扱われ、経済的にも社会的にも安定した地位が得られます。
彼らの手によって結われた大銀杏の美しさは、力士の品格を決定づける重要な要素です。その責任の重さと技術の希少性が、高い給料水準によって正当に評価されているといえるでしょう。
技術ランクによる昇給制度
床山は一等から五等までの等級に分かれており、昇級試験や経験年数によってランクが上がっていきます。等級が上がるごとに基本給のベースアップが行われ、結える髪の種類(丁髷から大銀杏へ)も変わっていきます。
一等床山で20万円台から30万円台、二等床山で10万円台から20万円台といったように、段階的に給料が増えます。技術職であるため、単に長く在籍していれば良いわけではなく、確かな腕前が昇給の絶対条件となります。
若手のうちは関取の髪を触らせてもらえず、兄弟子の髪を結う練習を繰り返す日々が続きます。この期間は給料も安いですが、技術を盗み、自分のものにすることで将来の収入アップにつなげていくのです。
部屋所属としての待遇
床山は相撲協会に採用されますが、基本的には各相撲部屋に所属して生活を共にします。そのため、家賃や食費がかからないというメリットは他の裏方と同様であり、可処分所得は見た目の給料よりも多くなります。
部屋の力士が昇進して関取になれば、その専属の床山として指名されることもあり、手当やご祝儀が増えるチャンスです。部屋の勢いや力士の活躍が、床山のモチベーションや収入にも間接的に影響を与えます。
また、引退した元力士の断髪式では、最後の大銀杏を結うという最大の見せ場があります。こうした晴れ舞台を務めることは床山としての誉れであり、長年の信頼関係が形となる瞬間でもあります。
若者頭と世話人の給料と役割
行司・呼出・床山とは異なり、元力士が引退後に就くことができる「若者頭(わかいものがしら)」と「世話人(せわにん)」という職分があります。彼らは親方(年寄)にはなれなかったものの、協会に残って働く人々です。
現役時代の実績や人柄が評価されて採用されるため、誰でもなれるわけではありません。ここでは、力士のセカンドキャリアとしての若者頭と世話人の給料や待遇について解説します。
引退力士のセカンドキャリア
若者頭と世話人は、引退した力士の中から優秀で真面目な人物が選ばれ、定年まで協会職員として雇用されます。給料は月給制で、現役時代の最高位に関わらず一定の基準に基づいて支給されるため、非常に安定しています。
金額の詳細は公表されていませんが、一般的に十両力士の月給よりは低いものの、サラリーマンの平均年収以上の水準はあると推測されます。無理な肉体酷使がなくなり、安定した収入が得られるため、希望者は少なくありません。
親方株を取得できなかった力士にとって、相撲界に残って生活できる数少ない道です。そのため、現役時代から周囲の信頼を得て、真面目に相撲に取り組んできた人だけが掴める「狭き門」でもあります。
親方になれなかった人の受け皿
年寄名跡(親方株)の数は限られているため、実績があっても親方になれない力士は多数存在します。そうした人材を有効活用するための受け皿として、若者頭と世話人の制度は機能しています。
彼らは親方衆と力士の間に立ち、部屋や一門の調整役として重要な役割を果たします。給料面では親方には及びませんが、現役時代のような激しい勝ち負けの世界からは解放され、穏やかに相撲界に貢献できます。
福利厚生や退職金制度もしっかりしているため、生涯の仕事として安心して勤めることができます。かつてのライバルたちと共に、裏方として相撲協会を支え続けることに誇りを持っている人が多いです。
業務内容と対価のバランス
若者頭は本場所での前相撲の進行や、巡業先でのちゃんこ会場の手配など、現場の指揮を執るのが仕事です。一方、世話人は荷物の輸送手配やチケットの管理など、事務的かつ物流的なサポートを主に行います。
これらの業務は経験豊富な元力士だからこそできることであり、その対価として支払われる給料は決して安くはありません。現役時代のような華やかさはありませんが、相撲を知り尽くしたプロとしての待遇が用意されています。
彼らがスムーズに動くことで、巡業や本場所が滞りなく運営されています。その貢献度は非常に高く、給料以上の価値を相撲協会に提供していると言っても過言ではない重要なポジションです。
まとめ:裏方の給料は安くないが楽ではない
相撲の裏方である行司、呼出、床山の給料は、完全な年功序列と階級制によって管理されています。入門当初は極めて低い給料からスタートしますが、衣食住が保証されており、長く勤め上げれば年収1000万円も夢ではありません。
彼らは単なる労働者ではなく、伝統文化を継承する技術者であり、その技能に対して給料が支払われています。好きでなければ続かない厳しい世界ですが、定年まで勤めれば退職金もあり、一生の仕事にする価値は十分にあります。
- 裏方は序ノ口から月給制だが初任給は低い
- 行司・呼出・床山のトップは高収入を得られる
- 若者頭や世話人は元力士の安定した第二の人生
- 衣食住の保証と退職金が長期雇用の魅力
もし相撲中継を見る機会があれば、土俵上の力士だけでなく、きびきびと働く裏方たちの姿にも注目してみてください。彼らの誇り高い仕事ぶりと、それを支える給料事情を知れば、大相撲がより深く楽しめるはずです。


コメント