大相撲の世界で「幕下」という地位は、力士たちにとって運命を分ける大きな壁であり、最も過酷な階級として知られています。未来の横綱候補である若手ホープがひしめく一方で、関取への復帰を目指すベテランの実力者たちも虎視眈々とチャンスを狙っているのです。関取の一歩手前でありながら、その待遇は天と地ほどの差があり、まさに「地獄の釜の蓋」とも呼ばれる厳しさがあります。
ここでは、そんな幕下の基本的な定義から待遇面での大きな違い、そして勝ち上がるための条件について詳しく解説していきます。まずは、幕下という地位の全体像を以下のポイントで整理してみましょう。
- 幕下は十両の下、三段目の上に位置する階級である
- 関取ではないため、月給が支給されない「養成員」である
- 定員は東西合わせて120名と決まっている
幕下とは何かを知る!地位の定義と力士数や取り組み形式
「幕下」とは、正式名称を「幕下二段目」と呼び、大相撲の番付において十両の下に位置する重要な階級のことを指します。相撲界全体の構成で見ると上から3番目の地位にあたりますが、プロの力士として一人前と認められる「関取」との境界線にあるため、その意味合いは非常に重いものです。多くの力士がこの地位で厚い壁に跳ね返され、夢半ばで土俵を去っていくという厳しい現実があります。
この階級には、学生相撲出身のエリートや叩き上げの若手、怪我で番付を落とした元関取などが混在しており、毎場所激しい生存競争が繰り広げられています。観客にとっても、次世代のスターを探す楽しみと、人生をかけた男たちのドラマが凝縮された非常に見応えのある階級なのです。まずは制度的な側面から、幕下の仕組みをより深く理解していきましょう。
番付上の位置付けと階級の意味
大相撲の番付はピラミッド型に構成されており、幕下はその中腹に位置する重要なセクションとして機能しています。上には幕内と十両という「関取」が存在し、下には三段目、序二段、序ノ口という階級が続いていますが、幕下は「養成員」の最上位という位置付けです。つまり、まだ修業中の身分でありながら、実力的には関取に匹敵する力士も多数在籍しているという特殊な環境にあります。
この地位に定着すること自体が容易ではなく、新弟子検査に合格した力士の中でも、幕下まで昇進できるのは全体の一握りに過ぎません。相撲部屋の中でも兄弟子として下の階級の力士を指導する立場になり、責任感やリーダーシップも求められるようになります。単に相撲が強いだけでなく、部屋の中心的な存在として振る舞うことが期待される地位なのです。
幕下で相撲を取るということは、関取まであと一歩という希望と、いつ転落するかわからない不安が常に隣り合わせの状態です。そのため、土俵上の気迫や執念は他の階級とは一線を画すものがあり、相撲通の間では「幕下の相撲が一番面白い」と評されることも少なくありません。
所属する力士の定員と構成人数
幕下の大きな特徴の一つとして、所属できる力士の人数があらかじめ「定員制」として厳格に定められている点が挙げられます。三段目以下の階級には定員がなく、その時の力士数によって増減しますが、幕下は東西合わせて120名(片側60枚)という枠が決まっています。この限られた120の椅子を巡って、下からの突き上げと上からの陥落が繰り返されるのです。
番付の枚数で言うと「幕下筆頭」から「幕下60枚目」までが存在し、それぞれの枚数に東と西の力士が一人ずつ配置される構成となります。この定員制があるため、三段目で好成績を残しても、幕下の枠に空きがなければ昇進の幅が調整されることも稀に発生します。逆に言えば、幕下の番付に名前が載ること自体が、選ばれた120名の実力者であるという証明になるのです。
定員が固定されていることで、番付編成における競争原理が非常に明確に働き、1枚の違いが天国と地獄を分けることもあります。特に上位の番付は十両昇進に直結するため、毎場所の星取勘定における1勝の重みが計り知れないほど大きくなります。
本場所での取組回数とスケジュールの違い
関取である十両以上の力士は15日間毎日相撲を取りますが、幕下以下の力士は1場所につき「7番」しか相撲を取りません。基本的には2日に1回のペースで土俵に上がることになり、15日間の開催期間中で7回の取組を行うスケジュールが組まれています。この「7番勝負」という短期決戦の形式が、幕下の戦いをよりシビアで緊張感のあるものにしています。
4勝すれば「勝ち越し」となり番付が上がりますが、3勝以下だと「負け越し」となり番付が下がってしまうため、まずは4勝目を挙げることが至上命題です。取組のない日は、関取の付け人としての業務や稽古に専念することになりますが、試合勘を維持するのが難しい側面もあります。1回の敗戦が最終的な成績に大きく響くため、初日から千秋楽まで気が抜けない日々が続きます。
また、7戦全勝した場合はそのまま優勝となりますが、全勝者が複数いる場合は千秋楽に優勝決定戦が行われます。この7番という限られたチャンスの中でいかに実力を発揮できるかが、幕下力士にとって最大の課題であり、関取への道を切り開くための必須条件となるのです。
幕下付出というエリート入門制度の仕組み
学生相撲やアマチュア相撲で顕著な実績を残した選手には、前相撲や序ノ口を免除され、いきなり幕下からデビューできる「幕下付出」という制度があります。これは即戦力として期待されるエリートのための特権であり、実績に応じて「幕下10枚目格付出」や「幕下15枚目格付出」などの待遇が与えられます。彼らは入門直後から関取に近い位置でスタートできるため、スピード出世の大きなチャンスを掴んでいると言えます。
しかし、この制度で入門した力士には「即結果を出して当たり前」という強烈なプレッシャーがのしかかることになります。叩き上げの力士たちは「エリートには負けられない」という対抗心を燃やして挑んでくるため、最初の数場所で壁にぶつかるケースも珍しくありません。プロの独特な土俵の感触や生活環境にどれだけ早く適応できるかが、付出デビュー組の成否を分ける鍵となります。
近年では制度の改正も行われていますが、依然として大学横綱や実業団王者がこのルートを使って角界入りすることは一般的です。彼らがプロの洗礼を浴びながらも順調に出世していくのか、それともプロの厚い壁に阻まれるのかを見守るのも、幕下観戦の大きな醍醐味の一つと言えるでしょう。
まげの形や大銀杏が結える条件の特例
力士の象徴である「まげ」についても、幕下と関取では明確なルールの違いが存在しており、見た目で階級が判別できるようになっています。原則として、幕下以下の力士は「丁髷(ちょんまげ)」を結いますが、十両以上の関取になると先が広がった「大銀杏(おおいちょう)」を結うことが許されます。しかし、幕下力士であっても特定の条件を満たす場合には、特例として大銀杏を結うことが認められるケースがあるのです。
その特例とは、十両力士との対戦が組まれた場合や、弓取り式を務める場合、あるいは巡業や断髪式などの特別な行事に参加する場合などが該当します。特に十両との対戦で大銀杏を結って土俵に上がる姿は、幕下力士にとって晴れ舞台であり、関取への憧れを強く再認識する瞬間でもあります。普段の丁髷姿から、凛々しい大銀杏姿に変わることで気合が入る力士も少なくありません。
髪の量が少なくて大銀杏が結えない場合などを除き、基本的にはこの髪型の違いが身分の差を視覚的に表しています。幕下力士たちは、毎日大銀杏を結って土俵入りすることを夢見て、日々汗と砂にまみれながら稽古に励んでいるのです。
十両と幕下の待遇格差は?給料や生活環境の劇的な違い
相撲界には「十両と幕下は天国と地獄」という有名な言葉がありますが、これは決して大袈裟な表現ではなく、待遇面における冷酷なまでの現実を表しています。番付がたった1枚違うだけで、収入、住環境、服装、そして周囲からの扱いまで、生活のあらゆる要素が劇的に変化するのです。幕下力士にとって、十両に昇進することは単なるランクアップではなく、人間としての生活水準を一変させる「ドリーム」そのものです。
ここでは、具体的にどのような待遇の差が存在するのか、給料や日常生活のルールに焦点を当てて解説します。この圧倒的な格差を知ることで、なぜ力士たちが怪我をおしてでも土俵に上がり、必死の形相で白星を掴み取ろうとするのか、その執念の理由が理解できるはずです。
給料ゼロの厳しい現実と場所手当の金額
幕下以下の力士は「養成員」という枠組みに分類されるため、日本相撲協会からの月給は一切支払われません。関取になれば月収110万円以上(2025年時点の目安)が保証され、さらにボーナスにあたる賞与も支給されるのに対し、幕下力士に定期的にお金が入るのは年6回の本場所ごとの「場所手当」のみとなります。その金額は現在約16万5千円程度であり、これを2ヶ月でやりくりする必要があるため、経済的には非常に厳しい環境です。
しかし、彼らは相撲部屋で共同生活を送っているため、家賃や食費といった生活の基盤にかかる費用は基本的に師匠が負担しています。衣食住が保証されているため生きていくことは可能ですが、個人的な楽しみや将来のための貯金に回せるお金はほとんどありません。勝ち越した際に後援会や贔屓筋から「ご祝儀」をもらえることもありますが、それは不安定な臨時収入に過ぎないのです。
この「無給」という現実は、プロスポーツ選手として非常に過酷な条件ですが、ハングリー精神を養うためのシステムとも言えます。お小遣い程度の収入で厳しい稽古に耐え抜く日々から脱出したいという強烈な渇望こそが、関取への昇進を目指す最大の原動力になっていると言えるでしょう。
付け人としての業務と共同生活のルール
幕下力士は、自分自身の稽古や取組を行う一方で、関取の身の回りの世話をする「付け人」としての役割も果たさなければなりません。兄弟子である関取の着替えの手伝い、入浴の準備、食事の配膳、荷物の運搬、マッサージなど、その業務は多岐にわたり、自分の時間は極端に制限されます。朝は関取より早く起き、夜は関取が寝るまで雑用をこなすという生活サイクルが基本となります。
住環境に関しても、関取になれば個室が与えられますが、幕下以下は基本的に大部屋での共同生活を強いられます。プライベートな空間は布団一畳分程度しかなく、常に集団の中で生活するため、精神的な休まる場所が少ないのが実情です。いびきや生活音に悩まされることも日常茶飯事であり、ストレス管理も重要な課題となってきます。
このように、幕下力士は「力士」であると同時に「使用人」のような側面も持ち合わせて生活しています。しかし、付け人として関取の近くで過ごすことは、一流の技術や心構え、土俵外での振る舞いを間近で学ぶ絶好の機会でもあります。将来自分が関取になった時のシミュレーション期間として、この苦労を糧にできるかが成長の鍵となります。
着物や履物など服装に定められた細かい規定
力士の階級による差別化は、身につけるもの一つ一つにも厳格な規定として表れており、一目で地位が分かるようになっています。関取は質の良い絹の着物や羽織、袴の着用が許されますが、幕下力士は基本的に綿素材の浴衣や着物しか着用できません。冬の寒い時期であっても、コートやジャンパーの着用は許されず、薄手の羽織やマフラー程度で寒さをしのがなければならないのです。
足元に関しても明確な違いがあり、関取が雪駄や草履を履けるのに対し、幕下以下は下駄を履くのが基本です(幕下上位など一部例外あり)。また、博多帯のような上質な帯を締めることができるのも関取の特権であり、幕下力士は安価な帯を使用します。これらの服装規定は、伝統的な身分制度を色濃く残しており、視覚的に「まだ半人前である」ことを周囲に示す役割も果たしています。
外出する際も、関取が着飾って出かけるのに対し、幕下力士は質素な格好で出歩くことになるため、劣等感を抱くこともあるでしょう。しかし、「いつか自分もあの着物を着てやる」という憧れと反骨心が、厳しい稽古に打ち込むモチベーションに変換されていくのです。
幕下上位の激戦区!十両昇進をかけた入れ替え戦の過酷さ
幕下の中でも特に「幕下15枚目以内」、さらにその中でも「幕下5枚目以内」の上位層は、次期関取候補がひしめく超激戦区です。ここでは毎場所、十両昇進をかけた熾烈なサバイバルレースが繰り広げられており、その緊張感は他の地位とは比較になりません。勝ち越し一つで人生が変わる可能性がある一方で、あと一歩届かずに涙をのむ力士も数多く存在します。
昇進の基準は明確なようでいて、実は十両からの陥落者数や引退者数によって変動する「運」の要素も絡んできます。ここでは、そんな幕下上位の昇進事情について、具体的なラインや入れ替え戦の厳しさに焦点を当てて解説します。力士たちが人生をかけて挑む、大相撲で最も熱いドラマが生まれる場所の仕組みを知っておきましょう。
全勝優勝と勝ち越しによる昇進ラインの目安
幕下から十両への昇進を決めるための最も確実な方法は、幕下で「7戦全勝優勝」を果たすことです。基本的に全勝優勝者は無条件で翌場所の十両昇進が約束される慣例があり(番付編成の事情で稀に例外あり)、これが最短かつ最強の切符となります。しかし、全勝できるのは120人の中でたった1人(あるいは数人)だけであり、ほとんどの力士は勝ち星を積み重ねて昇進を待つことになります。
一般的に、十両昇進の目安とされるのは「幕下15枚目以内で勝ち越すこと」ですが、現実にはもっと厳しい条件が求められます。例えば、幕下筆頭であれば4勝3敗の勝ち越しでも昇進の可能性が高いですが、5枚目付近になると5勝2敗、あるいは6勝1敗という好成績が必要になるケースがほとんどです。単に勝ち越すだけでなく、どれだけ質の高い勝ち星を挙げられるかが問われるのです。
また、番付編成会議では直近の成績だけでなく、過去数場所の安定感や相撲内容も加味されることがあります。ギリギリの成績で昇進を見送られた場合、翌場所で負け越してチャンスを逃してしまう力士も多いため、一度掴んだ流れを離さない勝負強さが不可欠となります。
十両から陥落する力士との入れ替わり事情
幕下から十両へ上がる力士がいるということは、逆に十両から幕下へ落ちてくる力士も必ず存在します。十両の定員は28名と決まっているため、昇進枠の数は「十両から落ちる人数」と完全に連動しており、これが昇進の難易度を左右する最大の要因です。十両下位の力士が好成績を残して誰も落ちないような場所では、幕下からの昇進枠が極端に狭くなる現象が起こります。
逆に、十両力士の引退や怪我による休場、大幅な負け越しが多発した場所では、昇進枠が増えて「入れ替え戦」のような様相を呈することもあります。幕下上位と十両下位の対戦が組まれることも多く、この直接対決は「給料を奪い合う戦い」として、本場所の取組の中でも特に殺気立った雰囲気に包まれます。勝てば関取、負ければ無給という究極の勝負が土俵上で展開されるのです。
この「枠」の運不運に泣かされる力士も多いですが、真の実力者はどんな状況でも枠をこじ開けて上がっていきます。他人の成績を気にするのではなく、自力で勝利をもぎ取り、文句なしの成績を残すことだけが、不確定要素を排除する唯一の方法なのです。
幕下筆頭を含めた上位5枚目の壁とプレッシャー
「幕下筆頭」から「幕下5枚目」あたりまでの地位は、関取への最終関門として巨大なプレッシャーがかかるエリアです。ここまで上がってくる力士は全員が実力者であり、技術的にも体力的にも十両と遜色のないレベルに達しています。しかし、ここから最後の一歩を踏み出すのが最も難しく、この地位で何年も足踏みをしてしまう「ヌシ」のような存在も少なくありません。
この位置での取組は、対戦相手も必死であるため、相撲の内容がより厳しく、一瞬の隙が命取りになります。また、十両力士との対戦が組まれることも多く、プロの壁を肌で感じながら戦わなければなりません。あと1勝で昇進という場面で身体が硬くなり、本来の相撲が取れずに敗退してしまう精神的な弱さが露呈するのもこの地位の特徴です。
「地獄の釜の蓋」という言葉は、まさにこの上位層の苦しさを表現しています。実力は紙一重でも、ここを突破できるかどうかが、力士としての生涯年収や引退後の人生までをも決定づけるため、本人だけでなく部屋全体がピリピリとした緊張感に包まれるのです。
力士の技術と心構え!幕下で求められる相撲内容の変化
幕下に上がると、それまでの三段目以下とは異なり、単なる力の強さだけでは通用しない場面が増えてきます。対戦相手も基礎がしっかりしており、独自の得意技を持っていることが多いため、技術的な駆け引きや精神的な強さが勝敗に直結するようになるのです。ここで求められるのは、プロとしての「自分の型」を確立し、どんな相手にも対応できる柔軟性と強靭なメンタリティです。
また、幕下は若手の成長期とベテランの円熟期が交錯する場所でもあり、多種多様な相撲スタイルがぶつかり合います。ここでは、幕下を勝ち抜くために必要な技術的要素や心構えについて解説します。これらを知ることで、取組を見る際のアングルが変わり、より深く相撲を楽しめるようになるでしょう。
立ち合いの鋭さとスピードが勝敗を分ける理由
幕下の相撲において最も重要視される技術の一つが、立ち合いの鋭さとスピードです。関取に比べて体格が完成していない力士も多いため、真正面からの力比べよりも、一瞬の爆発力で勝負が決まるケースが多く見られます。立ち合いで一歩でも遅れれば、相手に有利な体勢を作られてしまい、そこからの逆転は非常に困難になります。
特に「低く当たる」ことの重要性は、幕下レベルになると極めて高くなります。相手の懐に入り込み、重心を崩すような鋭い踏み込みができれば、体格差を覆して勝利することが可能です。逆に、立ち合いで腰が高くなったり、当たりが弱かったりすると、一気に押し出されてしまう脆さも同居しています。0.1秒の反応速度が明暗を分けるため、日々の稽古では立ち合いの確認が何度も繰り返されます。
上位を目指す力士は、ただ前に出るだけでなく、相手の動きを瞬時に見極めて変化に対応する反応速度も磨いています。立ち合いの衝撃音とともに勝負が決まるような速攻相撲は、幕下ならではの魅力であり、そのスピード感こそがこの階級の技術レベルを証明しているのです。
ベテランと若手が交錯する独特な土俵の雰囲気
幕下の土俵は、勢いのある10代・20代の若手力士と、経験豊富な30代のベテラン力士が激突する交差点のような場所です。若手は体力とスピードに任せて攻め込もうとしますが、ベテランは長年の経験で培った「いなし」や「変化」などの老獪なテクニックでそれを封じ込めようとします。この「力対技」の構図は、幕下の取組における典型的な見どころの一つです。
若手にとっては、ベテランの巧みな相撲運びをどう攻略するかが成長への試金石となり、ベテランにとっては、若手の勢いをどう止めて自分の地位を死守するかが生き残りの鍵となります。互いに意地とプライドがぶつかり合うため、土俵上の空気は独特の緊張感を帯び、時には激しい張り手や強引な投げ技が飛び出すこともあります。
また、かつて幕内や三役で活躍した元実力者が怪我で幕下に落ちている場合もあり、彼らが見せる「腐っても鯛」と言わんばかりの熟練の技は、相撲ファンを唸らせるものがあります。新旧の世代交代がリアルタイムで行われる現場として、幕下の土俵は非常にドラマチックな空間となっているのです。
メンタル面の強化が関取への道を切り開く鍵
技術や体力以上に、幕下を突破するために不可欠なのが強靭なメンタルです。前述したように、幕下での一番は生活がかかった真剣勝負であり、そのプレッシャーに押しつぶされずに実力を発揮する精神力が求められます。特に勝ち越しがかかった一番や、昇進がかかった大一番では、極度の緊張の中で冷静な判断を下せるかどうかが勝敗を分けます。
「負けたら給料なし」「負けたらまた雑用生活」という恐怖心と戦いながら、それでも前に出る勇気を持てるかが重要です。多くの力士が「稽古場では強いのに本場所で勝てない」という壁に直面しますが、これを乗り越えるためには、成功体験を積み重ねて自信をつけるしかありません。師匠や兄弟子からの叱咤激励を受けながら、心技体の「心」を鍛え上げることが、関取への唯一の道なのです。
逆境に立たされた時こそ、その力士の真価が問われます。怪我や連敗で心が折れそうになっても、歯を食いしばって土俵に上がり続ける執念。そうした精神的なタフさを身につけた力士だけが、地獄の釜の蓋をこじ開けて、光あふれる関取の世界へと羽ばたくことができるのです。
観戦が面白くなる!幕下の取組における注目ポイント
大相撲観戦といえば、夕方の幕内力士の取組がメインだと思われがちですが、実は午後1時〜2時頃に行われる幕下の取組にこそ、通好みの面白さが詰まっています。テレビ放送の枠組みや時間の関係で目にする機会は少ないかもしれませんが、未来のスターをいち早く発見できる喜びは、幕下観戦ならではの特権です。また、生活をかけた必死さが伝わってくるため、一戦一戦の熱量は幕内にも引けを取りません。
ここでは、そんな幕下の取組をより楽しむための視聴方法や、注目すべきポイントについて紹介します。これを知っておけば、大相撲の楽しみ方が2倍にも3倍にも広がり、力士たちの成長物語をより深く味わうことができるはずです。
NHKBS放送やインターネット配信での視聴方法
地上波のテレビ放送では、幕下の取組はほとんど放送されませんが、NHKのBS放送であれば午後1時から中継が始まっており、幕下の好取組をリアルタイムで観戦することができます。特に話題の力士や注目の若手が登場する一番は、解説者も詳しく説明してくれるため、初心者でも状況を理解しやすいでしょう。BSが見られない環境でも、現在はインターネット配信が充実しています。
「NHKプラス」や日本相撲協会公式のYouTubeチャンネル、あるいは「ABEMA」などの配信サービスを利用すれば、スマートフォンやパソコンから全取組をチェックすることが可能です。特にABEMAでは序ノ口から全ての取組を放送しており、解説も若手親方が務めるなど、地上波とは違ったフランクな雰囲気で相撲を楽しめます。
自分の好きな時間に、好きな場所で幕下の熱戦を見ることができる時代です。特定の力士を追いかけて毎場所の取組をチェックする「推し活」のような楽しみ方も、ネット配信の普及によって非常に身近なものになっています。
次世代のスター候補を青田買いする楽しみ方
幕下観戦の最大の醍醐味は、将来の横綱や大関になるかもしれない「原石」を自分で見つけ出すことにあります。まだ世間一般には知られていない段階で、「この力士は強くなる」と目をつけ、その成長過程を見守る喜びは格別です。十両や幕内に上がって活躍した時に、「自分は幕下の頃から応援していた」と古参ファンとして語れるのも、この時期から見ている人の特権でしょう。
注目すべきポイントは、体格の良さや相撲の型はもちろんですが、土俵上での落ち着きや目つき、負けた時の悔しがり方などにも素質が現れます。また、相撲雑誌やネットの情報を参考にして、高校や大学時代の有名選手がどのようなプロ生活をスタートさせているかを確認するのも面白い見方です。
彼らが壁にぶつかり、それを乗り越えて番付を上げていく姿は、まさに少年漫画のような成長ストーリーです。一人一人の力士に物語があり、その序章を目撃できるのが幕下というステージなのです。
優勝決定戦のドラマと表彰式のシンプルな風景
千秋楽に行われる幕下の優勝決定戦は、本場所のハイライトの一つと言える熱い戦いです。7戦全勝同士が激突する一番は、関取昇進への決定的なアピールとなるため、お互いの意地がぶつかり合う名勝負が生まれやすくなります。また、優勝決定戦は幕内の取組の合間に行われることもあり、満員のお客さんの前で相撲が取れる貴重な機会でもあります。
見事優勝を果たした力士は表彰式に臨みますが、幕内優勝のような派手なパレードや巨大なトロフィーはありません。賞状と金一封が手渡されるだけのシンプルなものですが、その表情には苦難を乗り越えた達成感と、次のステージへの希望が満ち溢れています。この素朴な表彰式こそが、まだ彼らが「修行の身」であることを象徴しており、同時にこれからの飛躍を予感させる美しい光景でもあります。
優勝インタビューで語られる言葉も、飾り気がなく実直なものが多く、力士の人柄が垣間見えます。派手な演出がない分、純粋な勝負の重みと勝者の喜びがダイレクトに伝わってくる瞬間です。
まとめ:幕下のドラマを知れば大相撲はもっと深い!
今回は、大相撲における「幕下」という地位について、その定義から待遇、昇進の仕組みまで詳しく解説してきました。幕下は単なる通過点ではなく、力士たちの人生が凝縮された非常に濃厚な戦場であることがお分かりいただけたでしょうか。華やかな幕内力士の活躍の裏には、この過酷な環境で爪を研ぐ120名の男たちの存在があるのです。
無給の生活、共同部屋での苦労、そして十両という天国を目指す執念。これらを知った上で見る幕下の一番は、これまでとは違った重みと感動を与えてくれるはずです。ぜひ次の本場所では、早い時間からチャンネルを合わせ、未来のスターたちが繰り広げる熱い戦いに注目してみてください。そこには、大相撲の原点とも言える純粋な闘争本能とドラマが待っています。
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