「相撲部屋はお金持ち」というイメージを持っていませんか?
テレビで見る関取たちは高級車に乗り、豪快に食事をする姿が印象的ですが、その裏側には知られざる「格差」が存在します。実は相撲部屋の経営は、弟子(力士)の人数や成績、そして強力なスポンサーである「タニマチ」の存在によって天と地ほどの差が生まれるのです。ある部屋はプール付きの豪邸、ある部屋は賃貸マンションの一室ということも珍しくありません。
この記事では、ベールに包まれた相撲部屋の「お金」について、以下の視点で深掘りします。
- 噂される「金持ち部屋」の実名と理由
- 相撲部屋にお金が入る驚きのシステム
- 伝説的なタニマチのエピソード
- 経営を圧迫する巨額の食費事情
これを読めば、土俵の外で繰り広げられるもう一つの「大相撲」が見えてくるはずです。
相撲部屋で金持ちなのはどこ?資産と実力が生む格差の正体
「日本一金持ちな相撲部屋はどこか?」という疑問に対し、公表されたランキングは存在しません。
しかし、部屋の建物(不動産)、所属する関取の数、そして歴史的な背景から「間違いなくトップクラス」と評される部屋はいくつか存在します。ここでは、ファンの間で長年「資産家」として知られる部屋や、その判断基準となる要素について解説します。
「九重御殿」と呼ばれた圧倒的な資産価値
相撲界で「金持ち」と聞いて多くのファンが真っ先に思い浮かべるのが「九重部屋」です。
昭和の大横綱・千代の富士(先代九重親方)が築き上げたこの部屋は、東京都墨田区にありながら広大な敷地と豪華な設備を誇り、通称「九重御殿」と呼ばれました。トレーニングルームや治療施設はもちろん、住居部分もマンション並みのグレードであると言われています。
先代が現役時代に獲得した莫大な賞金や、国民的人気によるタニマチからの支援が、この強固な財政基盤を作りました。都心の一等地に自前で土地と建物を所有していること自体が、数十億円規模の資産価値を意味しており、賃貸で運営している部屋とは経営の体力に圧倒的な差があります。
関取の多さが直結する「佐渡ヶ嶽部屋」の財力
部屋の収入は、所属する力士の人数と番付に大きく左右されます。
その点で常にトップクラスの収益を上げていると推測されるのが、名門「佐渡ヶ嶽部屋」です。常に多数の関取(十両以上の力士)を輩出し、総勢数十名の力士を抱える大所帯です。
後述しますが、相撲協会からの交付金は力士の頭数に応じて支払われるため、弟子が多い部屋ほど基礎収入が増えます。さらに、稼ぎ頭である関取が多ければ、彼らが獲得する懸賞金や、後援会からの祝儀も桁違いになります。佐渡ヶ嶽部屋のような「大人数・強豪部屋」は、経営面でも盤石な体制を築いている典型例です。
不動産を「所有」か「賃貸」かの決定的違い
外からは見えにくいですが、部屋の建物が「持ち家」か「借り物」かは、親方の懐事情を判断する最大のポイントです。
八角部屋(元横綱・北勝海)や伊勢ヶ濱部屋(元横綱・旭富士)のように、横綱経験者が創設した部屋は、現役時代の蓄えを元手に自社ビルならぬ「自社部屋」を建設するケースが多く見られます。これらは毎月の家賃が発生しないため、長期的に見て資産形成が有利になります。
一方で、ビルの一角や倉庫を改装して賃貸している部屋も少なくありません。特に新興の部屋や、都心の地価高騰で土地を買えなかった部屋は、毎月の高額な家賃支払いが経営の重しとなることがあります。
年寄株(親方株)という見えない資産
部屋の現金収入とは別に、親方自身が持つ「年寄株(年寄名跡)」も莫大な資産です。
かつては数億円で取引されたとも噂される年寄株は、相撲部屋を興すための「免許証」のようなものです。人気のある名跡や、由緒ある株を持つ親方は、それだけで大きな潜在的資産を持っていることになります。
ただし、近年は協会の改革により名跡の売買は表向き禁止され、管理も厳格化されています。それでも、「誰がどの株を継承するか」が金銭的なトラブルに発展するニュースがなくならないのは、そこに巨額の価値が眠っている証拠とも言えるでしょう。
「タニマチ」の質で変わる臨時収入
定期収入以外の部分で差がつくのが、私設応援団である「タニマチ」の存在です。
IT企業の社長や医療法人の理事長など、現代の「太客」がついている部屋は、場所ごとの打ち上げパーティーや合宿の差し入れが豪華絢爛です。高級ホテルの宴会場を貸し切って派手なパーティーを行える部屋は、それだけ潤沢な資金が集まっている証拠です。
逆に、地域密着で細々と運営している部屋では、公民館や部屋の稽古場で質素に打ち上げを行うこともあり、ここにも明確な「格差」が現れます。
相撲部屋の収入源は?「力士は米びつ」の仕組み
「相撲部屋はどうやって儲けているのか?」というビジネスモデルの核心に迫ります。
基本的には日本相撲協会からの交付金がメインですが、その仕組みは非常にシビアです。相撲界には「力士は米びつ」という言葉がありますが、これは弟子が入門すればするほど、部屋に入ってくるお米(お金)が増えることを生々しく表現しています。
協会から支給される「運営補助金」の実態
相撲部屋の基礎収入となるのが、協会から支給される以下の3つの助成金です。
- 力士養成費:幕下以下の力士1人につき月額約7万円
- 稽古場維持費:場所ごとに力士1人につき約5万5千円
- 相撲部屋維持費:場所ごとに力士1人につき約11万5千円
これらを合計すると、弟子が1人いるだけで年間約180万円近くが部屋に入金される計算になります。つまり、弟子が10人いれば1,800万円、20人いれば3,600万円が、親方の経営原資として保証されるのです。
これが、親方たちが全国を回って必死に「新弟子スカウト」を行う最大の理由です。弟子が減ることは、そのまま経営危機に直結します。
関取が誕生すると発生するボーナス
弟子が十両以上の「関取」に昇進すると、部屋に入るお金はさらに増額されます。
「養成奨励金」などの名目で、関取1人につき場所ごとに数万円〜数十万円が追加支給されます。横綱や大関になればその額は跳ね上がります。また、関取は自分の給料から「部屋代」や「積立金」を納める慣習がある部屋も多く、経営を助ける柱となります。
関取が一人もいない部屋と、複数の関取を抱える部屋では、協会からの入金額だけで年間数百万円から一千万円以上の差がつくと考えられます。
さらに、本場所で懸賞旗がついた場合、懸賞金(1本約6万2千円)の一部は事務手数料や税金として引かれますが、残りは力士の手取りとなります。この手取りから、力士が部屋の行事にお金を出すことで、間接的に部屋が潤うサイクルも存在します。
維持費だけで消える?カツカツの経営事情
「年間180万円×人数」と聞くと大金に見えますが、実際は右から左へ消えていくのが実情です。
このお金には、弟子たちの食費(1日2回のちゃんこ)、水道光熱費、医療費、着物やマワシの費用、さらには部屋の家賃や修繕費まで全てが含まれています。育ち盛りの力士の食欲は凄まじく、普通の家庭の数倍のエンゲル係数となります。
ある親方は「弟子が少ないと赤字、多すぎても食費で赤字、ちょうどいい人数で関取が多いのが一番儲かる」と語ったと言われています。損益分岐点を見極める経営手腕が問われるのです。
「タニマチ」とは何者か?現代のパトロン事情
相撲部屋を語る上で欠かせないのが、無償の愛で金銭的支援をする「タニマチ」です。
かつては「贔屓(ひいき)筋」と呼ばれていましたが、なぜタニマチと呼ばれるようになったのか、そして現代ではどのような人々がその役割を担っているのかを解説します。
語源は大阪の「谷町」にいた医師
「タニマチ」という言葉のルーツは明治時代末期まで遡ります。
大阪の谷町筋(現在の大阪市中央区谷町)に住んでいた「薄(すすき)病院」の医師が、相撲好きで力士たちを世話し、治療費を一切取らなかったことが始まりと言われています。また、力士だけでなく、彼らに小遣いまで渡していたという伝説も残っています。
そこから「谷町の先生のとこへ行く」が「スポンサーに会いに行く」という意味で使われるようになり、現在では相撲界に限らず、芸能界やスポーツ界全般で「無償の支援者」を指す言葉として定着しました。
現代のタニマチは「企業スポンサー」が主流
昭和の時代には、個人の資産家や地元の名士がポケットマネーで数百万円をポンと出すような豪快なタニマチが多くいました。
しかし、バブル崩壊やコンプライアンスの強化により、現在の主流は「法人(企業)」としての後援会組織です。企業が宣伝費や交際費として部屋を支援し、その対価としてパーティーへの参加権や、カレンダーへの社名掲載、力士をイベントに呼ぶ権利などを得ます。
また、最近では「ネットタニマチ」のような新しい形も生まれています。クラウドファンディングやオンラインサロンを通じて、少額から部屋を応援できる仕組みを取り入れる部屋も増えており、一部の富裕層だけの特権ではなくなりつつあります。
地方場所で威力を発揮する「現地タニマチ」
相撲部屋にとって特にありがたいのが、大阪、名古屋、福岡で行われる地方場所での支援者です。
東京を離れて約1ヶ月間、ホテルや宿舎で生活する地方場所は、滞在費が莫大にかかります。この時、宿舎としてお寺や倉庫を無償で貸してくれたり、毎日大量の食材(米、肉、野菜)を差し入れてくれたりする現地の有力者が、部屋の経営を救っています。
地方場所のたびに毎晩のように宴席が設けられるのは、これら現地のタニマチへの接待と感謝の意味も込められているのです。
想像を絶する支出!相撲部屋の家計簿
収入が多い一方で、相撲部屋の支出もまた桁外れです。
一般家庭の常識では計り知れない、相撲部屋ならではの「巨大な出費」について見ていきましょう。特に食費と水道代は、経営を圧迫する二大要因です。
年間2000万円超えも?衝撃の「食費」
相撲部屋最大の出費は、間違いなく「食費」です。
かつて二子山部屋のおかみさんだった藤田紀子さんは、メディアで「食費だけで年間2,000万円以上かかった」と証言しています。力士は体を大きくすることも仕事の一部であり、1回の食事で米を数升、肉を数キロ単位で消費します。
ちゃんこ鍋は野菜も多くヘルシーと言われますが、その量は尋常ではありません。さらに、プロテインやサプリメント代も加わると、弟子1人あたりの維持コストは相当な額になります。タニマチからの米や肉の差し入れが、どれほど経営の助けになっているかが分かります。
水道代だけで月30万円のリアル
食費に次いで驚かれるのが水道代です。
激しい稽古で泥だらけになった巨漢たちが、1日に何度もシャワーを浴び、洗濯機を回します。トイレの使用回数も多く、またトイレ自体も特注サイズで水を多く使うことがあります。
前述の二子山部屋の例では、水道代だけで月額30万円に達したこともあるそうです。これにガス代、電気代(特に夏場の冷房費)が加わると、光熱費だけで中小企業のオフィス並みの経費がかかります。
医療費や接骨院代もバカにならない
力士は怪我がつきものの職業です。
テーピング、湿布、接骨院での治療費なども、基本的には部屋や個人の負担となります(相撲診療所など一部補助はあります)。体が資本の商売である以上、メンテナンス費用をケチることはできません。
このように、入ってくるお金は大きくても、出ていくお金もまた巨大なのが相撲部屋の現実です。「金持ち」に見える裏側では、親方とおかみさんが電卓を叩きながら、必死にやりくりしている姿があるのです。
まとめ
相撲部屋の「お金」に関する事情を解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
華やかな土俵入りや化粧まわしの裏側には、弟子を一人前の関取に育てるための莫大なコストと、それを支える緻密な経営システムが存在します。「金持ち」とされる部屋も、単に贅沢をしているわけではなく、歴史ある資産の運用や、数多くの弟子を養うための努力の結果と言えるでしょう。
今回のポイントをまとめます。
- 「金持ち部屋」は自前物件の所有と関取の多さが条件
- 部屋の基本収入は「弟子1人あたり年間約180万円」の補助金
- 「タニマチ」は個人から企業スポンサーへ変化しつつある
- 食費や水道代は一般家庭の数十倍で経営を圧迫している
これからは、土俵上の勝負だけでなく、懸賞旗の数や力士の人数、そして化粧まわしに書かれたスポンサー名にも注目してみてください。大相撲の違った一面が見えて、観戦がより一層楽しくなるはずです。


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