大相撲の魅力は本場所の取組だけではありません。力士たちが寝食を共にし、日々激しい稽古に励む「相撲部屋」こそが、強さの源泉であり伝統文化の拠点です。現在、日本相撲協会には約45の相撲部屋が存在し、それぞれが独自のカラーや指導方針を持っています。
近年では、元関脇・嘉風が創設した中村部屋や、元大関・琴奨菊の秀ノ山部屋など、新しい世代の親方が率いる部屋も誕生しています。一方で、歴史ある部屋の閉鎖や合併といった動きもあり、相撲部屋の勢力図は刻々と変化しているのが現状です。
この記事では、相撲部屋の名前や読み方といった基礎知識から、実際に見学へ行くための最新ルールまでを詳しく解説します。
- 一門別・全相撲部屋の名前と読み方リスト
- 東京・両国周辺を中心とした部屋の場所マップ
- 一般人でも可能な稽古見学の予約方法とマナー
- 相撲部屋の名前の由来や知っておきたい豆知識
相撲部屋の名前と読み方一覧|一門別の特徴と所属力士
相撲界には「一門(いちもん)」と呼ばれる5つのグループが存在し、すべての相撲部屋はいずれかの一門に所属しています。一門は冠婚葬祭や稽古の連合などを行う強い絆で結ばれており、部屋のルーツや特徴を知る上で欠かせない要素です。
ここでは、5つの一門ごとに相撲部屋の名前と読み方、そして主な所属力士や特徴を紹介します。難読な部屋名も多いため、正しい読み方をマスターして、大相撲観戦をより深く楽しみましょう。
出羽海一門の部屋と特徴
出羽海(でわのうみ)一門は、相撲界で最も歴史が古く、所属する部屋数も最大を誇る名門グループです。本家である出羽海部屋をはじめ、春日野部屋や境川部屋など、規律と伝統を重んじる部屋が多く集まっています。
主な部屋には、御嶽海を擁する「出羽海部屋」、多くの関取を輩出する「木瀬(きせ)部屋」、元大関・栃東が師匠の「玉ノ井(たまのい)部屋」などがあります。また、個性的な力士が多いことで知られる「式秀(しきひで)部屋」もこの一門に属しています。
この一門の部屋は、東京の墨田区や江東区だけでなく、足立区や埼玉方面など比較的広範囲に点在しているのが特徴です。伝統的な指導を守りつつも、大規模な部屋から小規模な部屋まで多様な環境で力士たちが切磋琢磨しています。
二所ノ関一門の部屋と特徴
二所ノ関(にしょのせき)一門は、かつての大横綱・大鵬を生んだ流れを汲む、実力派の部屋が揃う一門です。現在は、第72代横綱・稀勢の里が興した「二所ノ関部屋」が茨城県に広大な施設を構え、一門の象徴的存在となっています。
注目すべきは、2024年6月に元関脇・嘉風が独立して新設した「中村部屋」や、元大関・琴奨菊の「秀ノ山(ひでのやま)部屋」など、若手親方の独立が活発な点です。他にも、大関・琴櫻が所属する「佐渡ヶ嶽(さどがたけ)部屋」などの有力部屋があります。
以前は「貴乃花一門」に所属していた部屋の多くも、現在は二所ノ関一門に合流しています。そのため、指導方針やカラーの異なる部屋が混在しており、非常に活気に満ちたグループとして角界を盛り上げています。
高砂一門の部屋と特徴
高砂(たかさご)一門は、明治時代から続く名門であり、かつては朝青龍などのスター横綱を輩出したことで知られます。本家の「高砂部屋」を中心に、少数精鋭ながらも結束力の強い一門として存在感を示しています。
代表的な部屋には、元横綱・武蔵丸が師匠を務める「武蔵川(むさしがわ)部屋」や、元関脇・水戸泉の系譜を継ぐ「錦戸(にしきド)部屋」などがあります。また、元小結・闘牙が師匠の「高田川(たかだがわ)部屋」は二所ノ関一門ですが、歴史的な経緯で交流があります。
九重(ここのえ)部屋もこの一門の有力な部屋であり、元横綱・千代の富士が築き上げた黄金時代の伝統を継承しています。一門全体として、個性を伸ばす指導を行う部屋が多く、ファンサービスに熱心な親方が多いのも特徴と言えるでしょう。
時津風一門の部屋と特徴
時津風(ときつかぜ)一門は、双葉山道場を源流とする「時津風部屋」を中心とした一門です。相撲の神様と呼ばれた双葉山の教えを受け継ぎ、質実剛健な力士を育てること定評があります。
主な部屋には、元大関・霧島が師匠を務めていた陸奥部屋(2024年閉鎖)から力士を受け入れた「音羽山(おとわやま)部屋」や「荒汐(あらしお)部屋」があります。荒汐部屋はSNSでの発信力が強く、若者からの人気が高い部屋のひとつです。
また、正代などが所属する時津風部屋や、遠藤が所属する「追手風(おいてかぜ)部屋」もこの一門です。特に追手風部屋は、日大出身者を中心に多くの関取を輩出しており、スカウト力と育成力の高さで注目されています。
伊勢ヶ濱一門の部屋と特徴
伊勢ヶ濱(いせがはま)一門は、横綱・照ノ富士を擁する「伊勢ヶ濱部屋」を筆頭に、近年最も勢いのある一門です。稽古の厳しさは角界一とも言われ、熱海富士や尊富士といった若手有望株が次々と台頭しています。
この一門には、元大関・魁皇が率いる「浅香山(あさかやま)部屋」や、元関脇・安美錦の「安治川(あじがわ)部屋」などがあります。安治川部屋は独自のスカウト戦略やユニークなファンイベントを行い、新しい風を吹き込んでいます。
なお、元横綱・白鵬が師匠を務めていた宮城野部屋は、2025年時点では伊勢ヶ濱部屋預かりとなり、事実上の活動休止状態にあります。所属していた力士たちは伊勢ヶ濱部屋の力士として土俵に上がっており、一門全体の層の厚さをさらに強化しています。
東京にある相撲部屋の場所マップ|両国周辺とそれ以外のエリア
相撲部屋の多くは、東京の両国国技館周辺に集中しています。これは本場所中の移動の利便性や、相撲診療所へのアクセス、そして何より「相撲の街」としての歴史的背景があるためです。
しかし近年では、より広い稽古場や生活スペースを求めて、両国以外のエリアに部屋を構えるケースも増えています。ここでは、エリアごとに相撲部屋の場所や特徴を整理し、聖地巡礼や見学の際の参考になる情報をお届けします。
両国・墨田区エリアの部屋
墨田区の両国エリアは、まさに大相撲の中心地です。国技館から徒歩圏内に多数の部屋が点在しており、本場所中には浴衣姿の力士が街を行き交う風景が日常的に見られます。相撲ファンにとっては、歩くだけで楽しめる特別なエリアです。
このエリアには、出羽海部屋、春日野部屋、時津風部屋といった名門に加え、2024年に新設された中村部屋(旧陸奥部屋の建物を使用)も位置しています。また、高砂部屋や八角部屋なども墨田区内にあり、古くからの相撲部屋建築を見ることができます。
見学だけでなく、ちゃんこ店巡りや相撲博物館への訪問と合わせて、一日中相撲文化に浸ることができるのがこのエリアの魅力です。特に早朝の時間帯は、稽古の熱気や力士たちの息遣いが街全体から感じられるかもしれません。
荒川区・江東区エリアの部屋
両国から少し足を延ばした江東区や荒川区にも、多くの有力な相撲部屋があります。特に江東区の清澄白河周辺は、かつて相撲部屋が多かった深川エリアの伝統を受け継いでおり、現在でも伊勢ヶ濱部屋や大嶽部屋などが拠点を置いています。
尾車部屋(現在は閉鎖)の跡地付近や、錣山(しころやま)部屋などもこのエリアに位置しています。江東区は下町の風情が残る街並みの中に、近代的なビル型の相撲部屋が溶け込んでいるのが特徴的です。
荒川区には、宮城野部屋(現在は伊勢ヶ濱部屋預かりのため建物のみ)などがありました。このエリアの部屋は、比較的閑静な住宅街にあることが多く、地域住民との交流を大切にしている部屋も少なくありません。
その他の都内・近郊の部屋
都心の過密化を避け、広大な敷地を確保できる郊外に部屋を構えるケースも増えています。代表的なのは、茨城県阿見町に東京ドーム並みの巨大施設を作った二所ノ関部屋です。最新のトレーニング機器や土俵を複数備えた環境は、次世代の相撲部屋のモデルケースとなっています。
東京都内でも、板橋区の常盤山(ときわやま)部屋や、足立区の玉ノ井部屋、境川部屋などは、両国からは離れていますが地域に根付いた活動を行っています。埼玉県の草加市には追手風部屋があり、都心へのアクセスと静かな環境を両立させています。
これらの部屋へ見学に行く際は、移動時間を十分に考慮する必要があります。しかし、都心の部屋に比べて見学者が殺到しにくい場合もあり、落ち着いて稽古を見学できる穴場スポットとなっていることもあります。
相撲部屋の見学方法と最新ルール|一般公開の有無を確認
テレビで見る力士たちの迫力を間近で体感できる「稽古見学」は、相撲ファンにとって最高の体験です。しかし、相撲部屋はあくまで力士たちの生活の場であり、観光施設ではないため、見学には厳格なルールや手順が存在します。
かつてはふらりと立ち寄って見学できる部屋もありましたが、コロナ禍を経て状況は大きく変わりました。ここでは、現在主流となっている予約方法や、初心者でも安心して参加できる新しい見学の形について解説します。
見学予約の取り方と電話対応
個人で稽古見学を希望する場合、基本的には事前の電話予約が必須です。各部屋の公式サイトやSNSで「見学可否」や「受付時間」を確認し、指定された番号に電話をかけます。くれぐれも、早朝や夜間の連絡は避け、稽古後の昼頃にかけるのがマナーです。
電話では、見学希望日、人数、代表者の氏名と連絡先を明確に伝えます。ただし、本場所の2週間前から場所終了までは、力士が集中する時期であるため、見学を受け付けていない部屋がほとんどです。狙い目は本場所終了後の巡業がない期間です。
最近では、荒汐部屋のように「窓越しなら予約不要で自由に見学可能」としている部屋や、二子山部屋のようにSNSで開放日を告知する部屋も増えています。電話が苦手な方は、まずはこうしたオープンな部屋から訪れてみるのも良いでしょう。
後援会に入らないと見られない?
「一見さんお断り」というイメージが強い相撲部屋ですが、必ずしも後援会に入らなければ見学できないわけではありません。確かに、一部の名門部屋では紹介者が必要な場合もありますが、多くの部屋は一般のファンにも門戸を開いています。
特に最近は、部屋の運営資金確保やファン拡大のために、有料の「見学ツアー」や「宿泊プラン」を提供するケースが増えています。例えば、旅行会社が主催する朝稽古見学ツアーや、両国のホテルが近隣の部屋と提携したプランなどです。
これらのプランを利用すれば、予約の手間が省けるだけでなく、ちゃんこ料理がついたり、親方との記念撮影ができたりする特典が付くこともあります。初心者にとっては、個人でアポイントを取るよりもハードルが低く、確実に見学できるおすすめの方法です。
地方場所の宿舎は見学しやすい?
東京以外のファンにとって、3月の大阪、7月の名古屋、11月の九州場所は、地元の宿舎で稽古を見学できる絶好のチャンスです。地方場所では、神社や寺院、倉庫などを臨時の宿舎として利用するため、建物自体が開放的な構造であることが多いのです。
宿舎によっては、土俵と見学スペースの距離が非常に近く、力士の肌がぶつかり合う音まで聞こえるほどの臨場感を味わえます。また、地域の方々への感謝を込めて、東京の部屋よりも見学を歓迎している雰囲気が強いこともあります。
ただし、地方宿舎であっても事前の確認は必要です。自治体の広報誌や観光協会のWebサイトに、各部屋の宿舎情報や稽古公開のスケジュールが掲載されることがあるので、場所入り前の情報をこまめにチェックしておきましょう。
稽古見学のマナーと注意点|失礼のない服装や持ち物をチェック
相撲部屋の稽古場は、力士たちが神聖な土俵で己を磨く真剣勝負の場です。見学者はその空気を乱さないよう、最大限の配慮とリスペクトを持つ必要があります。ほんの少しの不注意が、力士の集中力を削ぎ、怪我につながる可能性もあるからです。
ここでは、見学当日までに必ず知っておきたいマナーと注意点をまとめました。これらを守ることは、自分自身が気持ちよく見学するためだけでなく、今後も見学を受け入れてもらうためのファン全体の責任でもあります。
見学中の私語や撮影のルール
稽古見学中の私語は厳禁です。「すごい」「大きい」といった感嘆の声も、稽古場ではノイズになります。静寂の中で響く摺り足の音や、ぶつかり合う音だけが許される空間だと認識し、挨拶以外は口をつぐんで見守るのが基本です。
写真や動画の撮影については、部屋ごとにルールが異なります。「撮影可だがシャッター音は禁止」「動画は不可」「SNSへのアップ禁止」など様々です。必ず事前に親方やマネージャーに確認し、許可された範囲内で撮影を行いましょう。
また、携帯電話やスマートフォンは必ずマナーモードにするか、電源を切っておきます。稽古中に着信音が鳴り響くことほど、場の空気を凍らせるものはありません。バイブレーションの振動音さえ響くことがあるので、電源オフが最も確実です。
服装は正座できるものがベスト
見学スペースの多くは座敷や板の間であり、椅子が用意されているケースは稀です。基本的には正座、または足を崩して座ることになります。そのため、ミニスカートやタイトなパンツ、露出の多い服装は避け、あぐらをかいても問題ないゆったりとした服装を選びましょう。
帽子やサングラスは、室内に入ったら外すのが礼儀です。冬場の稽古場は窓が開け放たれていて寒いことが多いですが、防寒着を着る際も、シャカシャカと音が鳴る素材は避けたほうが無難です。カイロや厚手の靴下などで対策しましょう。
また、香水や香りの強い柔軟剤の使用も控えましょう。力士は感覚を研ぎ澄ませて稽古をしているため、異臭は集中力の妨げになります。清潔感があり、かつ目立ちすぎない服装で、黒衣に徹するのが理想的な見学者のスタイルです。
差し入れは必要?相場と渡し方
見学の際、手ぶらで行っても問題はありませんが、感謝の気持ちとして差し入れを持参するのは喜ばれます。定番は、ビールや日本酒などのお酒類、お米、スポーツドリンク、卵など、大量に消費する食料品です。
お菓子などを差し入れる場合は、個包装されていて分けやすいものや、日持ちするものが好まれます。相場は個人の場合、3,000円〜5,000円程度が一般的ですが、金額よりも「稽古を見せていただく」という感謝の気持ちが重要です。
渡すタイミングは、稽古が始まる前か、すべて終わった後が基本です。稽古中は親方も力士も指導に集中しているため、声をかけるのは失礼にあたります。マネージャーや若手の力士に「皆様で召し上がってください」と一言添えて渡すとスマートです。
まとめ
相撲部屋は、単なるトレーニング施設ではなく、日本の伝統文化と力士たちの人生が詰まった神聖な場所です。今回紹介した名前や読み方、一門の特徴を知ることで、本場所の取組を見る目が大きく変わるはずです。
見学に訪れる際は、最新の情報をリサーチし、事前の予約とマナーを徹底しましょう。稽古場で感じる熱気や音、匂いは、テレビ画面越しでは決して味わえない感動を与えてくれます。
まずは、自宅から近い部屋や、気になる力士がいる部屋の公式サイトをチェックすることから始めてみてください。実際に足を運び、推しの部屋を見つけることができれば、大相撲という奥深い世界をより一層楽しむことができるでしょう。


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