華やかな大相撲の世界で、力士たちが引退後に目指す「親方」という地位。
中でも自らの部屋を持たず、師匠の下で指導にあたる「部屋付き親方」の存在は、一般にはあまり知られていません。
彼らは一体どれくらいの給料をもらっているのでしょうか?
現役時代のように番付で収入が大きく変動するのか、それとも安定したサラリーマンのような生活なのか、気になるところです。
実は、部屋付き親方の懐事情は、私たちが想像する以上に複雑で興味深い仕組みになっています。
数千万円とも言われる年寄名跡を取得してまで親方になる価値はあるのか、その投資対効果も気になります。
この記事では、日本相撲協会の規定や最新の情報を基に、部屋付き親方のお金事情を丸裸にします。
- 部屋付き親方の具体的な年収と手当の内訳
- 部屋持ち親方との決定的な収入格差の正体
- 定年後の再雇用制度や年寄名跡の回収シミュレーション
部屋付き親方の給料と年収のリアル
結論から言うと、部屋付き親方の給料は決して安くはありません。
日本相撲協会の「寄附行為施行細則」に基づく給与規定により、安定した高収入が保証されています。
まずは、その具体的な金額と仕組みを見ていきましょう。
親方の給料は、現役時代の四股名や最高位に関係なく、協会内での「階級」によって決まります。
部屋持ちか部屋付きかによる基本給の差はなく、あくまで役職に応じた給与テーブルが適用されるのが特徴です。
日本相撲協会の階級別給与テーブル
相撲協会の親方衆は、理事長を頂点に厳格な階級制度の中にいます。
新米の親方であっても「年寄」という階級からスタートし、その月収は約70万円から80万円程度と言われています。
年収に換算すると1,000万円を超え、一般的なサラリーマンの平均年収を大きく上回ります。
さらに昇進して「主任」「委員」となれば月収は100万円前後に達し、役員待遇や理事になればさらに跳ね上がります。
この階級は年功序列の側面も強いですが、協会の運営にどれだけ貢献したかや、一門内の力学によっても昇進スピードが変わります。
つまり、部屋付きであっても長く勤め上げれば、かなりの高給取りになることが約束されているのです。
基本給以外の手当とボーナス事情
基本給に加えて、親方には様々な手当が支給されます。
夏と冬には賞与(ボーナス)があり、それぞれ基本給の約2ヶ月分が支給されるのが通例です。
これだけで年間数百万円のプラスになります。
その他にも、本場所ごとに支給される「場所手当」や、勤続年数に応じて加算される「勤続手当」、衣装代としての補助なども存在します。
特にユニークなのが「名跡金」で、年寄名跡の取得対価として毎月数万円が支給されます。
これらの手当を積み上げると、手取り額は相当な金額になることが予想されます。
定年後の再雇用制度「参与」の給料
親方の定年は満65歳ですが、希望すれば70歳まで「参与」として再雇用される制度があります。
これは一般企業の再雇用と同様に、現役時代よりも給料は下がります。
現役親方時代の約7割程度になると言われていますが、それでも年収ベースでは数百万円後半から維持されることが多いようです。
ただし、参与になると部屋を持つことはできず、協会の役員選挙への立候補権も失います。
あくまで後進の指導や協会のサポート業務に従事する立場となります。
それでも70歳まで安定した収入が得られることは、引退後の人生設計において非常に大きなメリットと言えるでしょう。
現役時代の番付と親方給料の関係
よく誤解されますが、現役時代に横綱や大関だったからといって、親方になってからの初任給が高いわけではありません。
元横綱でも元平幕でも、引退して親方になれば同じ「年寄」または「委員待遇」などからのスタートとなります。
ただし、元横綱などは功績を考慮されて昇進が早かったり、最初から高い階級で採用されたりする特例はあります。
しかし、基本的には親方としてのキャリアは横一線に近い形で始まります。
現役時代に稼いだ懸賞金や優勝賞金のような爆発的な臨時収入はなくなりますが、その分、怪我で休場して給料が下がるといったリスクからは解放されます。
安定感という意味では、現役時代よりも親方時代の方が優れているとも言えます。
給与から引かれるものと手取り額
高額な給料をもらっていても、そこから引かれるものも少なくありません。
税金や社会保険料はもちろんですが、親方衆には「一門」や「親睦会」などの付き合いにかかる費用も発生します。
また、後輩力士への祝儀や、冠婚葬祭などの交際費もばかになりません。
それでも、一般的な生活水準を維持するには十分すぎる額が手元に残ります。
部屋付き親方の場合、部屋の運営経費を負担する必要がないため、給料の多くを自分の生活や貯蓄に回すことができます。
この「可処分所得の多さ」こそが、部屋付き親方の隠れた魅力かもしれません。
部屋持ち親方との「収入格差」の正体
基本給は同じでも、部屋持ち親方(師匠)と部屋付き親方では、実際に動かせるお金の桁が違います。
それは、協会から部屋に対して支払われる「運営資金」の有無にあります。
ここでは、部屋持ち親方だけが得られる特権と、部屋付き親方との経済的な違いについて深掘りします。
「部屋を持つ=経営者になる」ことを意味します。
経営者には売上(協会からの支給金)が入りますが、そこから経費を支払わなければなりません。
一方、部屋付き親方はあくまで「従業員」に近い立場であり、経営リスクを負わない分、入ってくるお金の種類も限定されます。
部屋維持費や弟子育成費の仕組み
部屋持ち親方には、力士1人につき月額数万円の「力士養成費」や、部屋の維持管理に使われる「相撲部屋維持費」「稽古場維持費」などが支給されます。
これらは給料とは別の名目で振り込まれ、弟子の食費や光熱費、家賃などに充てられます。
弟子の数が多い部屋ほど、この支給額は莫大なものになります。
もちろんこれらは経費として使うためのお金ですが、やり繰り次第では手元に残るお金を増やすことも可能です。
また、部屋の後援会からの寄付やお祝い金なども、基本的には師匠が管理します。
このように、部屋持ち親方は給料以外のキャッシュフローが非常に大きく、それが「親方は金持ち」というイメージに繋がっています。
部屋付き親方には支給されないお金
一方、部屋付き親方にはこれらの運営資金は一切支給されません。
自分の弟子がいないため、育成費も維持費も発生しないからです。
部屋付き親方が受け取るのは、あくまで自分自身の給料と手当のみです。
また、部屋の谷町(タニマチ)や後援会からの支援も、基本的には部屋のトップである師匠に向けられます。
部屋付き親方にも個人的な支援者がいる場合はありますが、部屋全体を支えるような大規模な援助を受けることは稀です。
そのため、派手な生活や豪遊といった面では、部屋持ち親方には及ばないのが現実です。
独立して部屋を持つための厳しい条件
収入や名誉を求めて独立しようとしても、部屋を新設するハードルは年々上がっています。
「引退後1年経過」「所属力士数の規定」「資金力」など、厳しい条件をクリアしなければなりません。
特に土地や建物の確保には数億円規模の資金が必要となり、借金をしてでも部屋を持つ覚悟が問われます。
部屋付き親方の中には、将来の独立を目指して資金を貯めている人もいれば、リスクを避けて一生部屋付きでいることを選ぶ人もいます。
部屋を持てば経営責任という重圧がのしかかりますが、部屋付きなら指導と自身の業務に専念できる。
この「気楽さ」をお金に換算して納得している親方も多いのです。
部屋付き親方の仕事内容とコストパフォーマンス
年収1,000万円以上をもらう部屋付き親方ですが、その仕事内容は給料に見合っているのでしょうか。
「稽古場で座っているだけ」と揶揄されることもありますが、実際には多岐にわたる業務をこなしています。
ここでは、彼らの日常と業務内容を詳しく見ていきます。
相撲協会の業務は、本場所中とそれ以外で大きく異なります。
部屋付き親方は、自分の部屋での指導だけでなく、協会全体の運営を支える重要な歯車として機能しています。
見えないところでの苦労や、意外とハードなスケジュールの実態に迫ります。
稽古場での指導と師匠の補佐
朝の稽古では、まわしを締めて土俵に下り、若い力士に胸を出すこともあれば、土俵下からアドバイスを送ることもあります。
師匠が不在の時には代行として稽古を取り仕切ることもあり、部屋のナンバー2としての役割は重要です。
特に技術的な指導においては、現役時代の経験を活かせる最大の場面です。
しかし、最終的な決定権は師匠にあるため、自分の指導方針と師匠の方針が食い違うとストレスを感じることもあります。
師匠を立てつつ、力士を育てるバランス感覚が求められます。
この「中間管理職」的な悩みは、部屋付き親方特有のものかもしれません。
本場所中の業務と審判委員など
本場所中は、勝負審判として土俵下に座る姿がテレビでもよく見られます。
審判委員は極度の緊張感を強いられる仕事であり、物言いなどの判定には全責任を負います。
また、会場警備やチケットの管理、広報業務など、協会運営の裏方仕事も親方衆が分担して行っています。
これらの業務は朝から夕方まで続き、場所中は休みがありません。
地方場所では宿舎での生活となり、プライベートな時間も制限されます。
華やかな土俵の裏で、地道な労働を提供している対価としての給料だと考えれば、決して高すぎるわけではないのかもしれません。
地方巡業への帯同と手当
本場所がない期間に行われる地方巡業にも、多くの親方が帯同します。
移動と宿泊の連続で体力的にハードな仕事ですが、ここでも手当が支給されます。
巡業先でのファンサービスや、現地の主催者との調整など、営業マンとしての側面も求められます。
部屋付き親方は、部屋のしがらみに縛られすぎず、こうした協会業務に専念しやすい立場でもあります。
巡業手当や出張手当などが加算されることで、給料面でのメリットも享受できます。
激務ではありますが、全国を旅して相撲を普及させるやりがいのある仕事です。
年寄名跡の取得費用と回収シミュレーション
親方になるには「年寄名跡(年寄株)」が必要です。
一時期は数億円で取引されていたとも噂されるこの株ですが、高額な費用を払ってまで取得する価値はあるのでしょうか。
給料だけで元が取れるのか、シビアな視点で計算してみます。
現在、名跡の売買は表向き禁止されていますが、継承に伴う金銭の授受は実質的に存在すると言われています。
その相場は数千万円から1億円以上とも。
この巨額の投資を、定年までの給料で回収できるかどうかが、親方を目指す力士にとって最大の懸念事項です。
年寄名跡の取得難易度と相場
年寄名跡は全部で105しかなく、空きが出ない限り取得できません。
人気のある名跡や、由緒ある名跡は競争率が高く、取得には実力だけでなく政治力や資金力が必要です。
一般的に、相場は都内のマンションが買える程度と言われています。
もし仮に1億円で取得したとしても、親方になれば年収1,000万円以上が30年近く保証されます。
単純計算で生涯賃金は3億円から4億円になります。
そう考えれば、初期投資が大きくても十分にペイできるビジネスモデルと言えるでしょう。
65歳定年までに稼げる総収入
30代後半で引退して親方になり、65歳まで勤め上げたとします。
平均年収を1,200万円と仮定して30年間働けば、総額は3億6,000万円です。
ここから税金や生活費を引いても、名跡取得費用の借金を返済することは十分可能です。
さらに70歳までの再雇用期間を含めれば、生涯収入はさらに増えます。
何より「元力士」という肩書きだけでこれだけの安定収入が得られる職は、一般社会にはそうありません。
リスクを冒してでも株を取得しようとする力士が多いのも頷けます。
借金をしてでも親方になるメリット
多くの力士は、現役時代の貯金だけでは名跡費用を賄えず、後援会からの借金などで工面します。
それでも親方になるのは、金銭面だけでなく、相撲界に残れるという精神的な安定が大きいからです。
一般社会でゼロからキャリアを築く厳しさを考えれば、借金を背負ってでも「親方」というレールに乗る方が安全だと判断するのです。
また、協会に残れば厚生年金などの社会保障も手厚く、老後の不安も軽減されます。
部屋付き親方は、経営リスクを負わずにこの「協会の傘」に入ることができる、ある意味で最も賢いポジションかもしれません。
まとめ
部屋付き親方の給料は、決して「安い」ものではありませんでした。
むしろ、経営リスクを負わずに年収1,000万円以上が保証され、各種手当も充実している「高待遇」なポジションと言えます。
部屋持ち親方のような派手なキャッシュフローはありませんが、安定性においては抜群です。
彼らは師匠の補佐や協会の運営業務という地道な仕事をこなしながら、相撲界の伝統を支えています。
高額な年寄名跡を取得するハードルはありますが、長い目で見れば十分に元が取れる投資です。
相撲中継を見る際は、土俵下の審判や花道の警備をしている部屋付き親方たちの「働きぶり」にも注目してみてください。
- 部屋付き親方は年収1,000万円超えの安定職
- 部屋持ち親方とは違い、運営経費などの支給はない
- 年寄名跡取得は高額だが、生涯年収で見れば回収可能
- 定年後の再雇用制度もあり、老後の安定感も高い


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