大相撲の世界で親方として生きるために必要不可欠な「年寄株」。その取引価格は「億単位」とも噂され、一般社会の常識とはかけ離れた巨額の資金が動くと言われています。しかし、日本相撲協会は公益財団法人化に伴い、公式には金銭による売買を一切禁止しているのをご存知でしょうか。
建前上の「売買禁止」と、水面下で囁かれる「実勢価格」の乖離は、相撲界における長年の謎であり、時に深刻なトラブルの火種ともなってきました。本記事では、謎に包まれた年寄株の値段の相場や入手ルート、そして過去に起きた金銭トラブルの実例までを詳しく掘り下げます。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 推定相場 | 1億円〜3億円(銘柄により変動) |
| 定員数 | 105名(一代年寄を除く) |
| 公式ルール | 金銭授受による売買は禁止 |
| 取得必須条件 | 日本国籍、最高位や在位場所数の実績 |
年寄株の値段は現在どれくらい?相場の変動と高騰する理由
年寄株の値段は公式には存在しませんが、関係者の間では1億円から3億円程度で取引されているのが「公然の秘密」とされています。かつてのバブル期にはさらに高騰し、数億円が動いたとも言われており、その価値は時代や景気によって変動してきました。ここでは、ベールに包まれた年寄株の価格事情について、具体的な背景とともに解説します。実際の取引現場ではどのような論理で価格が決まるのか、その裏側を見ていきましょう。
建前上の価格と実勢価格の乖離
日本相撲協会は現在、年寄名跡の金銭授受を禁止しており、形式上は無償での譲渡や継承が行われていることになっています。しかし、実際には先代親方やその遺族に対して、退職金や功労金という名目で巨額の金銭が支払われるケースが少なくありません。この「裏金」とも呼べる金銭の授受が、事実上の売買価格として機能しているのが現状です。過去の裁判や国税局の調査でも、億単位の金銭授受が認定された事例が存在し、建前と本音の使い分けが常態化しています。協会が管理するようになった現在でも、当事者間の合意に基づく金銭のやり取りを完全に根絶するのは難しいと言われています。
人気銘柄と不人気銘柄の格差
すべての年寄株が一律の価格で取引されているわけではなく、名跡の「格」や歴史、付随する利権によって価格には大きな開きがあります。由緒ある名門の名跡や、将来的に理事長などを狙えるような有力な一門の株は、非常に高い人気と資産価値を誇ります。一方で、部屋付き親方として細々と活動するような名跡や、過去にトラブルがあった名跡などは、相対的に価格が低くなる傾向にあります。需要と供給のバランスに加え、その株を持つことで得られる将来的なリターンやステータスが、価格決定の重要な要素となっているのです。また、部屋持ち親方になれるかどうかも、価値を左右する大きなポイントです。
過去最高額と暴落時の価格推移
年寄株の相場が最も高騰したのは1990年代初頭のバブル経済期で、人気銘柄には3億円から4億円の値がついたとも噂されています。当時は相撲人気も絶頂期にあり、親方になることが莫大な利益を生むビジネスチャンスと捉えられていたため、投資対象のような側面もありました。しかし、バブル崩壊やその後の相撲界の不祥事続きによる人気低迷を受け、一時期は相場が大きく下落したとも言われています。それでも、定員が決まっている「希少な椅子」であることに変わりはなく、現在でも億単位の価値を維持しているのが実情です。景気動向と相撲人気が、密接に価格へ反映されていると言えるでしょう。
協会による売買禁止令の影響
相撲協会の公益財団法人化に伴い、年寄株の売買禁止が定款に明記され、名跡証書は協会が一括管理するシステムに変更されました。これにより、表向きには個人間での証書のやり取りや売買ができなくなり、透明性が高まったかのように見えます。しかし、実際には「顧問料」や「指導料」といった別の名目で金銭が動くなど、抜け道を使った取引が続いているとの指摘も絶えません。制度上の改革は進みましたが、長年の慣習として根付いた「親方になるには金が必要」という構造を完全に打破するには至っていないのが現実です。改革と伝統の狭間で、いまだ不透明な部分が残されています。
金銭授受が発覚した際のリスク
もし年寄株の譲渡に関して不正な金銭授受が公になった場合、当事者である親方や力士には厳しい処分が下される可能性があります。協会はコンプライアンス遵守を強化しており、発覚すれば解雇や引退勧告といった重いペナルティを科されるリスクも否定できません。また、税務署の監視も厳しくなっており、名目を変えた金銭授受であっても、実質的な譲渡益とみなされれば巨額の追徴課税を受けることになります。かつてのように「バレなければ良い」という感覚で取引を行うことは、現在では社会的にも法的にも非常に危険な行為となっています。親方としての地位を一瞬で失うリスクと隣り合わせなのです。
年寄株を取得するための条件とは?実績や国籍などの必須要件
いくら資金があっても、誰でも年寄株を取得して親方になれるわけではなく、相撲協会が定める厳しい条件をクリアする必要があります。これには現役時代の実績や国籍などが含まれ、長い年月をかけて積み上げた信用と結果が求められるのです。ここでは、親方になるために最低限必要な資格要件について詳しく解説します。これらのハードルを越えた選ばれし者だけが、親方としての第二の人生を歩むことができるのです。
最高位と在位場所数の基準
年寄襲名の基本的な条件として、現役時代の最高位と在位場所数に関する規定が設けられており、これが最初の大きな壁となります。具体的には「最高位が小結以上」「幕内在位通算20場所以上」「十両以上在位通算30場所以上」のいずれかを満たす必要があります。この基準は、親方として弟子を指導するために必要な経験と実力を担保するためのもので、一朝一夕に達成できるものではありません。怪我や不調で番付を落としてしまえば、あと一歩のところで条件を満たせず、引退後に協会に残れない力士も数多く存在します。そのため、現役晩年の力士たちは、この条件をクリアするために必死の土俵を務めるのです。
日本国籍の必要性と帰化の壁
年寄名跡を取得し親方になるためには、日本国籍を有していることが絶対条件となっており、外国籍のままでは親方になることができません。モンゴルやハワイなど外国出身の力士が数多く活躍する現代の大相撲において、この規定は非常に大きな意味を持っています。実績十分な外国出身力士であっても、引退後に協会に残るためには母国の国籍を離脱し、日本への帰化申請を行わなければならないのです。帰化手続きには時間がかかる上、母国の家族や国民感情との葛藤を乗り越える必要があり、精神的なハードルも決して低くありません。それでも多くの外国出身力士が日本国籍を取得するのは、親方という地位にそれだけの魅力があるからです。
襲名における承継者選びの仕組み
条件を満たした力士が必ずしも希望する年寄株を取得できるわけではなく、そこには現保有者やその一門との複雑な人間関係が絡んできます。通常、年寄株は師弟関係や一門のつながりの中で継承されることが多く、後継者として指名されるためには師匠からの信頼が不可欠です。また、保有者が亡くなっている場合は遺族が実質的な決定権を持つこともあり、遺族に気に入られるかどうかが鍵になるケースもあります。単にお金があれば買えるという単純なものではなく、長年にわたる人間関係や貢献度、そしてタイミングが合致して初めて襲名が実現するのです。まさに「運と縁」が大きく左右する世界と言えるでしょう。
年寄株が足りない問題と空き株の探し方
相撲協会には定員という枠が存在するため、条件を満たした力士全員が親方になれるわけではなく、常に「椅子取りゲーム」の状態が続いています。特に近年は現役力士の寿命が延びていることもあり、空き株が不足して引退のタイミングを失う力士も出てきています。ここでは、年寄株の定員問題と、空きがない場合に取られる救済措置や対策について解説します。希望する株が見つからない場合、力士たちはどのような選択を迫られることになるのでしょうか。
定員105名の枠と再雇用制度
年寄名跡の数は全部で105と決まっており、これに一代年寄などの例外を除けば、親方の定員は厳格に固定されています。そのため、新たに親方になりたい力士がいても、誰かが退職や死亡によって枠を空けない限り、新規に襲名することは物理的に不可能です。定年を迎えた親方が再雇用制度を利用して参与として残る場合でも、名跡自体は後進に譲るのが一般的ですが、調整がつかずに空きが出ないこともあります。この限られた105の椅子を巡って、現役力士や親方の間では水面下で激しい情報戦や交渉が繰り広げられているのです。枠に入れない力士は、どんなに実績があっても相撲界を去らざるを得ません。
借株(借り株)での一時的な凌ぎ方
自分の名跡を取得できない場合、一時的に他の親方が所有している名跡を借りて襲名する「借株」という方法が採られることがあります。これは、本命の名跡が空くまでのつなぎや、取得資金が貯まるまでの猶予期間として利用されることが多いシステムです。しかし、借株はいあくまで一時的な措置であり、所有者の都合で返却を求められれば、すぐに名跡を手放さなければならない不安定な立場に置かれます。過去には借株を転々としながら親方業を続け、最終的に自分の株を取得できずに廃業に追い込まれたケースもありました。借株での親方生活は、常に「いつ返せと言われるか」という不安との戦いでもあるのです。
引退間際の力士による争奪戦
引退が近づいたベテラン力士にとって、年寄株の確保は引退後の生活を左右する死活問題であり、熾烈な争奪戦が繰り広げられます。同じ時期に引退を考えているライバルがいれば、どちらが先に空き株を押さえるか、あるいはどちらが良い条件を提示できるかの競争になります。時には一門の枠を超えて情報を収集し、有力な親方や後援者に仲介を依頼するなど、土俵外での政治力が試される場面でもあります。この争奪戦に敗れた力士は、現役を続行して次のチャンスを待つか、潔く相撲界から身を引くかの二択を迫られることになります。実力だけでなく、事前の根回しや準備が引退後の明暗を分けるのです。
親方になるための資金調達と税金事情
億単位とも言われる年寄株を取得するためには、現役時代から計画的に資金を準備しておく必要があり、その方法は多岐にわたります。また、巨額の金銭が動く取引には当然ながら税金の問題も発生するため、税務処理を誤ると後々大きなトラブルに発展しかねません。ここでは、力士たちがどのようにして巨額の資金を工面しているのか、そして取得にかかる税金の実態について解説します。華やかな土俵の裏で、力士たちは金銭面でも厳しい現実に直面しているのです。
現役時代の懸賞金や給与の蓄積
年寄株取得の原資として最も基本的なのが、現役時代に獲得した懸賞金や給与、報奨金などをコツコツと貯蓄した自己資金です。人気力士であれば、毎場所多くの懸賞金が懸けられ、給与以外にも多額の収入を得ることができるため、比較的スムーズに資金を作ることが可能です。しかし、怪我で休場が続いたり、番付が下がったりすれば収入は激減するため、現役生活が長いからといって必ずしも十分な資金があるとは限りません。そのため、若いうちから引退後を見据えて質素な生活を送り、堅実に貯金を続けている力士も少なくないと言われています。自らの体一つで稼いだ金が、将来の身分を買うための元手となるのです。
後援会からの支援と借金の実態
自己資金だけで億単位の金額を用意するのは困難な場合が多く、多くの力士は有力な後援者(タニマチ)からの財政的な支援を仰ぐことになります。後援会が資金の一部を肩代わりしたり、あるいは無利子で貸し付けたりすることで、年寄株の取得をバックアップするケースが一般的です。中には銀行などの金融機関から借り入れを行う場合もありますが、不安定な職業であるため、やはり個人の信用や後援者の保証が重要になります。親方になってからも、この時の「借金」を返済するために、必死で部屋の運営や弟子の育成に励むという話は珍しくありません。タニマチとの関係は、引退後も長く続く重要なライフラインなのです。
名跡取得費用の税務処理と申告
年寄株の取得にかかった費用は、税務上「無形固定資産」として扱われることが一般的で、減価償却の対象となるかどうかが議論になることもあります。また、個人間で金銭の授受があった場合、受け取った側には譲渡所得税が、支払った側には資金の出所によって贈与税などの問題が発生する可能性があります。過去には税務申告の漏れや認識の違いから、国税局の指摘を受けて多額の追徴課税を支払うことになった親方も存在します。不透明な取引であればあるほど、こうした税務リスクは高まるため、近年では税理士などの専門家を入れて適正な処理を行う傾向が強まっています。親方になるためのコストは、単なる購入費だけでは済まないのです。
年寄株を巡るトラブルや訴訟の事例
巨額の利権が絡む年寄株の世界では、親子のような関係であった師弟間や、血を分けた親族間でさえも骨肉の争いに発展することがあります。約束が守られなかった、金が支払われない、証書が引き渡されないといったトラブルは、時に法廷闘争にまで持ち込まれ、世間の注目を集めてきました。ここでは、過去に実際に起きた年寄株を巡る代表的なトラブルや裁判事例を紹介します。これらの事例からは、名誉と金銭が複雑に絡み合う相撲界の闇が浮き彫りになってきます。
先代と後継者の間での金銭トラブル
年寄株の譲渡を巡って最も多いのが、先代親方(またはその遺族)と、名跡を継承した新親方との間で発生する金銭トラブルです。「名跡を譲る対価として○億円を支払う」という口約束があったにもかかわらず、支払いが滞ったり、そもそも合意がなかったと主張したりすることで争いになります。かつて立浪部屋で起きた継承騒動では、先代親方が後継者に対して名跡の対価を求めて訴訟を起こしましたが、最終的には支払いの義務なしという判決が確定しました。このようなトラブルは、密室での口約束や不明瞭な契約慣行が原因であることが多く、人間関係が破綻した瞬間に表面化します。一度こじれると、修復不可能な対立を生むことになります。
年寄名跡証書の引き渡し拒否問題
親方として活動するためには「年寄名跡証書」を協会に提出する必要がありますが、この証書を先代側が人質のように保持し、引き渡しを拒否するケースもあります。証書が手元になければ正式な襲名手続きができず、最悪の場合は廃業に追い込まれる可能性があるため、後継者にとっては死活問題となります。春日山部屋の事例では、先代親方が証書の引き渡しを拒んだことで現役親方が指導者の資格を失い、部屋が消滅するという異常事態に発展しました。証書一枚が力士や部屋の運命を左右する力を持っており、それが金銭交渉の道具として使われるという悲しい現実が存在するのです。
改革派と保守派の対立と今後
こうしたトラブルを未然に防ぐため、相撲協会内でも年寄株の管理方法や継承ルールを見直そうとする動きは、これまで幾度となく繰り返されてきました。しかし、既得権益を持つ保守派と、透明化を目指す改革派との間には深い溝があり、抜本的な解決には至っていないのが現状です。年寄株を私有財産とみなすか、協会の公的な資格とみなすかという根本的な定義づけにおいて、依然として意見の対立が見られます。今後、公益法人としてのガバナンスがより厳しく問われる中で、この「年寄株問題」にどのようなメスが入るのかが注目されています。伝統を守りつつ、近代的な組織へと脱皮できるかが問われているのです。
まとめ
大相撲の根幹に関わる「年寄株」は、1億円から3億円という一般常識を超えた金額で取引されることがある、極めて特殊な資産です。協会による公式な売買禁止にもかかわらず、水面下での取引やそれに伴うトラブルは後を絶たず、相撲界の深い闇の一部となっています。親方になるためには、厳しい実績条件をクリアするだけでなく、巨額の資金調達や複雑な人間関係の調整といった、土俵外での戦いにも勝利しなければなりません。
ファンとして相撲を楽しむ上では見えにくい部分ですが、こうした裏側の事情を知ることで、親方たちの必死の生き残り競争や、部屋運営にかける覚悟がより深く理解できるはずです。もし今後、引退した力士がどの名跡を襲名するのか、あるいは襲名できずに去っていくのかというニュースを目にしたら、その背後にあるドラマを想像してみてください。相撲界のニュースが、これまでとは違った角度から見えてくることでしょう。


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