「お相撲さんは美味しいものをたくさん食べられて羨ましい」と思ったことはありませんか。
テレビ中継で見かける大きな体は、実は血のにじむような努力と過酷な食事ノルマによって作られています。
彼らにとって食事は楽しみではなく、勝つための厳しい「稽古」そのものなのです。
この記事では、一般人の想像を遥かに超える相撲界の食事事情について、以下のポイントを中心に解説します。
- 新弟子を待ち受ける「どんぶり飯」の過酷なノルマ
- 1日2食で効率的に太るための科学的メカニズム
- 階級によって天と地ほど違う食事の待遇格差
- 引退後に待ち受ける健康リスクとダイエット事情
相撲部屋の台所事情や、ちゃんこ鍋に秘められた増量の知恵を知れば、土俵上の戦いがより深く味わえるはずです。
強くなるために限界まで食べ続ける、力士たちの壮絶な食の戦いに迫りましょう。
力士の食事ノルマと増量の掟!食べた分だけ強くなる相撲界の常識とは?
相撲界には「食うも稽古」という言葉があり、新弟子たちにとって食事は激しい朝稽古以上に辛い時間になることもあります。
体を大きくすることは強くなるための必須条件であり、そのためには満腹中枢の悲鳴を無視して胃袋に詰め込まなければなりません。
一般成人男性の摂取カロリーが1日約2,500kcalであるのに対し、力士は8,000kcalから10,000kcalを摂取すると言われています。
ただ漫然と食べるのではなく、効率的に体重を増やすためのルールやノルマが各部屋に存在し、力士たちは日々胃袋との戦いを繰り広げているのです。
新弟子を待ち受ける「どんぶり飯」の洗礼
入門したばかりの新弟子に課される最初の試練が、先輩たちの監視下で行われる食事ノルマです。
多くの部屋では「どんぶり飯3杯」が最低ラインとされ、おかずやちゃんこ鍋のスープで流し込むようにして米を胃に収めます。
苦しくて箸が止まると兄弟子から檄が飛び、吐きそうになりながらも完食を目指す姿は、まさに精神修行の様相を呈しています。
細身で入門した力士の場合、胃袋が大きくなるまでは食べたものを戻してしまうことも珍しくありません。
それでも「吐いてからが勝負」と教えられ、少し休んでまた食べることで、徐々に大量の食事を受け入れられる消化器官を作り上げていきます。
ある大関経験者は、少年時代に毎日肉1kgを完食するノルマを自らに課していたと語り、その壮絶な食生活が話題となりました。
もちろん現代では無理な指導は減りつつありますが、体を大きくしなければ土俵で勝てない現実は変わりません。
新弟子たちは涙目になりがら米を噛み締め、プロのアスリートとしての体作りの厳しさを、身を持って学んでいくのです。
なぜ1日2食なのか?空腹が体を大きくする理由
力士の食事は基本的に昼と夜の1日2食ですが、これには太るための科学的かつ合理的な理由が存在します。
朝食を抜いて激しい稽古を行うことで、体はエネルギーが枯渇した極限の「飢餓状態」に陥り、栄養吸収の効率が最大まで高まります。
この状態で昼に大量の食事を摂ると、血糖値が急上昇し、インスリンが大量に分泌されて栄養が脂肪として蓄積されやすくなるのです。
もし1日3食に分けてバランス良く食べてしまうと、血糖値の上昇が緩やかになり、同じカロリーを摂取しても太りにくくなってしまいます。
力士にとっての「太る」とは、単に脂肪をつけるだけでなく、相手の当たりに負けない重厚な体を作ることを意味します。
空腹時間を長く設けてからのドカ食いは、力士という特殊な職業に特化した、究極の増量メソッドと言えるでしょう。
ただし、空腹での稽古は低血糖のリスクもあるため、稽古前にバナナやゼリー飲料などで最低限の糖質を補給する場合もあります。
伝統的な習慣の中にも、最新のスポーツ栄養学を取り入れながら、力士たちは日々体作りの最適解を模索しています。
昼寝も重要な稽古?食べてすぐ寝る増量メソッド
昼のちゃんこを腹一杯に食べた後、力士たちは一斉に長い昼寝の時間に入りますが、これは単なる休息ではありません。
「食べてすぐ寝ると牛になる」という諺通り、食後の睡眠は基礎代謝を低下させ、摂取したエネルギーを消費せずに体に定着させる重要な工程です。
睡眠中は成長ホルモンが分泌され、午前中の激しい稽古で傷ついた筋肉の修復と合成が促進されるため、昼寝は増量と疲労回復の一石二鳥の効果があります。
部屋中に力士たちのいびきが響き渡る光景は壮観ですが、彼らの体内では食べたものを筋肉と脂肪に変えるフル稼働が続いています。
満腹状態で横になると逆流性食道炎のリスクもありますが、それでも体を大きくするために彼らは眠らなければなりません。
呼吸器をつけて無呼吸症候群対策をしながら眠る力士も多く、命がけで巨大化に挑んでいることがうかがえます。
夕方に起きてから夜のちゃんこを食べ、再び就寝するというサイクルを繰り返すことで、彼らは人間離れした巨体を手に入れます。
「食べる・寝る・稽古する」の3つが揃って初めて、力士としての仕事が完遂されると言っても過言ではありません。
現代の食事事情とプロテインの活用
かつては「米とちゃんこ鍋だけで体を作れ」と言われた時代もありましたが、現代の相撲部屋では科学的な栄養管理が進んでいます。
食事だけでは不足しがちなタンパク質を補うために、稽古後や就寝前にプロテインを摂取する力士は今や当たり前の存在となりました。
また、ビタミンやミネラルのサプリメントを併用し、体調管理や怪我の予防に努めるなど、他のアスリートと同様の意識改革が進んでいます。
部屋によっては栄養士を招いて献立を監修したり、血液検査の結果に基づいて個別の食事メニューを組んだりすることもあります。
単に太れば良いというわけではなく、動ける筋肉質の体を作ることが求められるため、食事の内容も高タンパク・低脂質へとシフトしつつあります。
鶏の胸肉やブロッコリーなど、ボディビルダーのような食材がちゃんこ鍋の具材として選ばれることも珍しくありません。
伝統を守りつつも新しい知識を取り入れ、より強く、より怪我をしにくい体を作るために、力士たちの食卓も進化を続けています。
どんぶり飯の精神論だけでなく、栄養学に裏打ちされた合理的な体作りが、現代の大相撲を支えているのです。
吐いても詰め込む?無理をしてでも食べる厳しさ
どれだけ科学的なアプローチが進んでも、最終的に体を大きくするためには、物理的に胃袋に食べ物を詰め込む必要があります。
特に体重が増えにくい体質の力士にとっては、毎日の食事が拷問に近い苦しみとなることも少なくありません。
吐き戻してしまうギリギリまで食べ、胃薬を飲みながらまた箸を進めるという光景は、決して過去の話ではないのです。
ある親方は現役時代、食べ過ぎで横になることすらできず、壁に寄りかかって座ったまま仮眠をとったと回顧しています。
また、巡業中のバス移動では、常に何かを口にしていなければならず、満腹感と乗り物酔いの二重苦と戦ったというエピソードも残っています。
華やかな土俵入りや豪快な取組の裏には、こうした想像を絶する食への執念と忍耐が隠されていることを忘れてはいけません。
彼らが無理をしてでも食べるのは、体重が軽ければ相手に突き飛ばされ、怪我をするリスクが高まるからです。
自分の身を守り、番付を上げて家族や部屋を支えるために、力士たちは今日も限界を超えて食べ続けています。
相撲部屋の台所事情とちゃんこ鍋の秘密
相撲部屋の食事は全て「ちゃんこ」と呼ばれ、鍋料理だけでなくカレーやハンバーグ、中華料理などあらゆるメニューが含まれます。
数十人分の食事を毎日用意するのは大変な重労働であり、その役割を担う「ちゃんこ番」の働きなしには部屋は回りません。
大量の食材が消費される相撲部屋の台所は、まるで飲食店の厨房のような活気に満ちており、独自のルールや伝統が息づいています。
ここでは、力士たちの胃袋を支えるちゃんこ作りの裏側や、驚きの食材調達事情について詳しく見ていきましょう。
ちゃんこ番の仕事と階級による役割分担
ちゃんこ番は主に関取になっていない幕下以下の力士が担当し、数名のチームを組んで当番制で回すのが一般的です。
朝稽古の途中で抜けて買い出しや調理を行い、稽古が終わる正午頃までに関取衆の食事を完璧に整えなければなりません。
料理の腕前は先輩から後輩へと口伝で受け継がれ、中にはプロの料理人も顔負けの絶品ちゃんこを作る「ちゃんこ長」と呼ばれるベテランも存在します。
味付けや火加減に失敗すれば、親方や兄弟子から厳しく叱責されるため、ちゃんこ番は相撲と同じくらい真剣勝負の場です。
また、食事中はお茶出しやご飯のおかわりをよそう給仕係としても動き回り、自分がゆっくり食べられるのは全員が食べ終わった後になります。
この下積み時代に料理の腕を磨いたおかげで、引退後にちゃんこ料理店を開業して成功する元力士も少なくありません。
ちゃんこ番の仕事を通じて、段取り力や気配り、組織への貢献といった社会人としての基礎能力も養われていきます。
一見すると雑用に見えるかもしれませんが、部屋の結束を固め、力士たちの体を作るという極めて重要な役割を担っているのです。
伝統の味からカレーまで?バラエティ豊かなメニュー
ちゃんこ鍋といえば「ソップ炊き(鶏ガラ醤油味)」が有名ですが、実際には味噌、塩、キムチ、豆乳など味のバリエーションは無限大です。
毎日同じ味では飽きて食が進まなくなるため、ちゃんこ番は工夫を凝らして日替わりのメニューを提供しています。
特にカレーライスやハヤシライスなどの洋食メニューは若い力士に人気があり、どんぶり飯を何杯もおかわりする姿が見られます。
場所中は「手をつかない(負けない)」という縁起を担いで鶏肉を使用し、四足歩行の牛や豚を避けるという伝統も一部で残っています。
しかし場所がない時期や稽古期間中は、豚の生姜焼きやステーキ、ハンバーグなど、肉料理を中心としたガッツリ系のメニューも頻繁に登場します。
また、名古屋場所では味噌カツ、九州場所では明太子など、地方ごとの特産品を取り入れたご当地ちゃんこも楽しみの一つです。
最近ではSNSで部屋の食事風景を発信するケースも増え、ピザやパスタなどが並ぶ現代的な食卓の様子も垣間見えます。
栄養バランスを考えつつ、厳しい稽古に耐える力士たちの食欲を刺激するために、相撲部屋のメニューは日々進化を遂げているのです。
食費はどれくらい?部屋を支えるタニマチの存在
大人数の大食漢を抱える相撲部屋にとって、毎月の食費は経営を左右するほどの莫大な金額になります。
米だけで1ヶ月に数百キロを消費し、肉や魚、野菜などの食材費を含めると、小規模な部屋でも月に数十万円から百万円以上がかかると言われています。
日本相撲協会からの補助金もありますが、それだけでは賄いきれない部分も多く、ここで重要になるのが「タニマチ」と呼ばれる後援者の存在です。
地元商店街や企業の社長、熱心なファンなどが、米俵や肉、旬の野菜や果物などを大量に差し入れてくれることで、部屋の台所は支えられています。
また、地方場所の宿舎では地元の支援者が炊き出しを行ったり、高級食材を振る舞ったりすることも恒例行事となっています。
力士たちが豪華な食事を腹一杯食べられるのは、彼らを応援し、強く育ってほしいと願う多くの人々の支援があってこそなのです。
力士たちは感謝の気持ちを込めてちゃんこを平らげ、土俵での活躍で恩返しをすることを誓います。
相撲部屋の食事は単なる栄養補給の場ではなく、力士と支援者を繋ぐ絆の象徴でもあると言えるでしょう。
階級で変わる食事の風景と待遇の格差
完全実力主義である相撲界の厳しさは、土俵の上だけでなく、日々の食卓にも明確な形で現れます。
関取(十両以上)か、それ以下の養成員かによって、食事の内容、食べる順番、座る場所まで全てが区別されています。
この格差は「強くなりたければ勝ち上がれ」という無言のメッセージであり、若い衆にとってのハングリー精神の源でもあります。
ここでは、番付という絶対的なヒエラルキーが支配する、相撲部屋の食事風景における残酷なまでの格差について解説します。
関取と幕下以下の決定的な食事内容の違い
食事の時間は、まず親方と関取衆がテーブルを囲み、出来立ての温かい料理を一番に箸をつけることから始まります。
彼らの前には刺身の盛り合わせやステーキ、個別に用意された特別な一品料理などが並び、栄養満点で豪華な食事が約束されています。
一方、給仕をしている幕下以下の力士たちは、ただ指をくわえてその光景を見ているしかなく、空腹を抱えながら先輩たちの世話に奔走します。
関取が食事を終えて席を立った後、ようやく若い衆の食事時間が始まりますが、メインのおかずはほとんど残っていないことも珍しくありません。
関取専用の高級食材には手をつけることが許されず、ちゃんこ鍋の具材も肉や魚が減り、野菜と汁が中心になっていることもあります。
もちろん、ひもじい思いをさせないように量は確保されていますが、「質」の面での待遇差は歴然としています。
この露骨な差を見せつけられることで、新弟子たちは「いつか自分もあっち側に座ってやる」という闘争心を燃やします。
美味しいものを一番に食べる権利は、血の滲むような努力で勝ち取った者だけに与えられる特権なのです。
食事の順番も番付順!兄弟子の残り物を食べる現実
相撲界の絶対ルールである「番付順」は食事の開始時間にも適用され、番付の低い力士ほど食事にありつく時間が遅くなります。
序ノ口や序二段の力士が食べ始める頃には、鍋のスープが煮詰まって味が濃くなっていたり、人気のおかずが冷めていたりすることも日常茶飯事です。
それでも文句を言うことは許されず、残っているものをありがたくいただき、ノルマのご飯を胃に詰め込まなければなりません。
かつては「兄弟子の残り汁でちゃんこ茶漬けをして食べた」という苦労話も多く聞かれましたが、今は衛生面や栄養管理の観点から改善されつつあります。
しかし、精神的な意味での「お下がり」を食べるという構造は変わっておらず、下位力士は常に謙虚な姿勢を求められます。
逆に言えば、関取になれば自分の好きなタイミングで、好きなものを食べられる自由が手に入るということです。
食事の順番を待つ間の空腹感と、目の前で美味しそうに食べる関取たちの姿は、若手力士にとって何よりのモチベーションとなります。
胃袋の格差こそが、力士たちを強くする原動力の一つとなっているのかもしれません。
外食事情と巡業中の食事の楽しみ方
部屋での食事以外にも、関取になると個人的に外食へ出かけることが許され、付き人を連れて焼肉や寿司を楽しみます。
これは関取の甲斐性を見せる場でもあり、付き人の分まで全ての支払いを持ち、腹一杯食べさせることが「上の者の務め」とされています。
一方、幕下以下の力士は基本的に外出や外食が制限されており、関取に連れて行ってもらえる時だけが、シャバの味を楽しめる貴重な機会となります。
地方巡業や合宿の際は、現地の美味しいものが振る舞われたり、自由時間にラーメン屋へ駆け込んだりといった楽しみもあります。
特に臥牙丸関が現役時代、九州でラーメンを替え玉含めて13玉食べたという伝説的なエピソードは、力士の規格外の食欲を物語っています。
厳しい規律の中にあるこうした「食の解放」は、力士たちにとって明日への活力を養う大切な息抜きの時間です。
しかし、羽目を外しすぎて体重管理に失敗したり、体調を崩したりすれば自己責任として厳しく問われます。
自由には責任が伴うことを理解し、自己管理ができるようになることも、一流の力士への階段を登るための条件なのです。
無理な増量が招くリスクと健康管理の難しさ
力士たちの巨大な体は強さの象徴であると同時に、常に深刻な健康リスクと背中合わせの状態にあります。
人間の生体機能を無視した急激な増量や、標準体重を遥かに超える肥満体型は、内臓や関節に多大な負担をかけ続けています。
「短命」と言われることも多い力士たちの健康問題は、相撲界全体が抱える大きな課題の一つです。
ここでは、糖尿病や痛風といった生活習慣病との戦い、そして引退後に待ち受ける激変する体調管理について解説します。
糖尿病や痛風との戦いと現役力士の苦悩
大量の食事と急激な体重増加は、膵臓に過度な負担をかけ、インスリンの分泌機能を低下させるため、力士は常に2型糖尿病のリスクに晒されています。
現役中は激しい稽古によって大量の糖質を消費するため、血糖値が正常範囲に収まっている力士も多いですが、潜在的なリスクは極めて高い状態です。
また、プリン体を多く含む肉類や魚介類を大量摂取することから、痛風を発症する力士も少なくなく、激痛に耐えながら土俵に上がるケースもあります。
健康診断で警告を受けても、体重を落とせば相撲で勝てなくなるというジレンマがあり、食事制限をすることは容易ではありません。
薬を服用しながら血糖値をコントロールし、ギリギリのバランスで現役生活を続けている力士も実は多く存在します。
横綱や大関クラスになればなるほど体への負担は大きく、怪我や病気による休場や引退の原因が、実は内臓疾患に起因していることもあります。
まさに命を削って体を維持しているのが実情であり、そのリスクを承知の上で土俵に立つ彼らの覚悟は並大抵のものではありません。
華やかな取組の裏側で、数値との戦いという孤独な闘病生活を送っている力士がいることも知っておくべき現実です。
引退後のダイエットと食生活の激変
力士にとって最大の健康危機が訪れるのは、実は現役を引退し、髷を落とした直後から始まります。
現役時代と同じような食事量や内容を続けていると、稽古による消費カロリーがなくなった分、一気に肥満が進み、糖尿病や心疾患のリスクが爆発的に高まります。
そのため、引退した元力士たちは、現役時代の増量以上に過酷な「減量」という新たな戦いに挑まなければなりません。
胃袋が大きくなっているため、普通の食事量では満腹感を得られず、空腹に耐える日々が数年続くと言われています。
多くの親方や元力士が、現役時代から30kg、40kgと体重を落とすことに成功していますが、そこには血の滲むような努力があります。
中には胃の縮小手術を受けたり、徹底した糖質制限を行ったりして、標準的な健康体を取り戻そうと必死に努力する人もいます。
「痩せなければ死ぬ」という現実的な恐怖と向き合いながら、彼らは第二の人生を歩むための体作りを一から始めるのです。
現役時代の栄光の影には、引退後も続く長い健康管理の道のりがあることを忘れてはいけません。
短命と言われる理由と改善への取り組み
統計的に見ても、幕内力士の平均寿命は一般男性よりも短い傾向にあり、50代や60代で亡くなる元力士のニュースも後を絶ちません。
これは現役時代の過度な増量、内臓への負担、引退後の生活習慣病などが複合的に影響していると考えられています。
この問題を重く見た日本相撲協会は、定期的な健康診断の義務化や、管理栄養士による指導体制の強化など、健康管理への意識改革を進めています。
最近では、無理な体重増加よりも、筋肉量を増やして体脂肪率をコントロールする「動ける体」を目指す指導方針の部屋も増えてきました。
また、現役中から引退後を見据えた食事教育を行うなど、力士の健康と寿命を守るための取り組みが徐々に浸透しつつあります。
伝統を守ることは重要ですが、力士の命を守ることはそれ以上に重要であり、相撲界は今、大きな転換期を迎えています。
海外出身力士の食事事情と文化の壁
モンゴルやジョージア、ブルガリアなど、世界各国から強豪たちが集まるようになった現代の大相撲において、食事の悩みは日本人以上です。
全く異なる食文化の中で育った彼らにとって、日本の「米」を中心とした食生活や、独特の味付けのちゃんこ鍋に馴染むことは容易ではありません。
言葉の壁だけでなく「食の壁」を乗り越えてこそ、彼らは日本の土俵で成功をつかむことができます。
ここでは、異国の地で奮闘する外国人力士たちの、知られざる食事の苦労と適応の物語を紹介します。
お米文化への適応と各国の食習慣の違い
日本人の主食である「お米」ですが、肉や乳製品、パンを主食とする国から来た力士にとっては、大量の白米を食べることは苦行そのものです。
特にモンゴル出身の力士たちは、羊肉などの肉料理が中心の生活だったため、炭水化物でお腹を満たす感覚に慣れるまで時間がかかると言われています。
新弟子の頃はご飯にマヨネーズやケチャップをかけたり、ふりかけを大量に使ったりして、なんとか喉に通していたというエピソードも珍しくありません。
しかし、「米を食べないと粘りが出ない」「腰が軽く重くならない」と指導され、彼らは必死にお米を食べる努力を続けます。
白鵬関(現・宮城野親方)も入門当時は痩せていましたが、徹底した食トレでお米を体に馴染ませ、あの強靭な肉体を作り上げました。
異文化を受け入れ、自らの肉体を日本仕様に変えていく柔軟性こそが、外国人力士が頂点を極めるための第一歩なのかもしれません。
宗教上の理由で食べられない食材への配慮
近年、イスラム教徒(ムスリム)の力士が入門するケースも見られ、豚肉やアルコールを口にできないという宗教上の戒律への対応も課題となっています。
相撲部屋のちゃんこ鍋は豚肉を使うことも多く、調味料に料理酒やみりんが含まれることもあるため、厳密なハラル対応は容易ではありません。
しかし、部屋側も個別の鍋を用意したり、鶏肉や牛肉メインのメニューに変更したりと、可能な限りの配慮を行っています。
また、特定の食材が苦手な力士に対しても、無理強いはせず、代替品で栄養を補うような柔軟な対応が増えてきています。
かつては「出されたものは残さず食え」が絶対でしたが、多様性を受け入れる姿勢が相撲界にも少しずつ広がっているのです。
宗教や文化の違いを尊重しつつ、同じ釜の飯を食う仲間として絆を深めていく姿は、現代相撲の新しい形と言えるでしょう。
故郷の味を取り入れたオリジナルちゃんこの誕生
外国人力士が増えたことで、相撲部屋の食卓にも国際色豊かなメニューが登場するようになりました。
モンゴルの蒸し餃子「ボーズ」や、ジョージアの伝統料理「シュクメルリ」などがちゃんことして振る舞われることもあります。
これらは「モンゴルちゃんこ」などと呼ばれ、部屋の力士たちにも好評で、厳しい稽古の合間の楽しみとなっています。
自分たちの故郷の味を仲間に知ってもらうことは、外国人力士にとって喜びであり、部屋のコミュニケーションを円滑にする効果もあります。
日本の伝統料理であるちゃんこ鍋が、海外の食文化と融合し、新たな進化を遂げているのは非常に興味深い現象です。
食を通じて互いの文化を理解し合うことで、国境を超えた強い絆が土俵の上でも発揮されているのです。
まとめ
力士たちの驚異的な肉体は、単にたくさん食べているからではなく、計算された食事ノルマと過酷な努力の結晶です。
1日2食のドカ食い、食後の昼寝、そして吐きそうになりながらも詰め込むどんぶり飯のエピソードは、彼らのプロ根性を物語っています。
最後に、力士の食事事情における重要なポイントを振り返ります。
- 食事も稽古の一部: 新弟子時代のどんぶり飯ノルマは、胃袋を大きくするための必須科目。
- 科学的な増量法: 空腹状態からの大量摂取と直後の睡眠が、脂肪と筋肉を効率よく合成する。
- 厳しい階級社会: 食べる順番から内容まで、番付が全ての待遇を決める完全実力主義。
- 命がけの代償: 糖尿病リスクや引退後の減量苦など、健康面でのリスクと常に隣り合わせである。
次に相撲中継を見る際は、土俵上の勝負だけでなく、その体を維持するために積み重ねられた食のドラマにも思いを馳せてみてください。
力士たちが一粒の米に込めた執念を知れば、あの一番一番がより重みを持って感じられるはずです。


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