大相撲の土俵上で、力士たちと同様に注目を集めるのが行司です。特に最高位である「立行司」となれば、その華やかな装束と威厳ある振る舞いは、まさに角界の顔と言えるでしょう。しかし、彼らが実際にどれほどの報酬を得ているのか、その懐事情は厚いベールに包まれています。
短刀を腰に差し、勝負の判定を誤れば切腹するという覚悟を持って土俵に立つ立行司。その命がけの職務に対し、支払われる給料は果たして見合っているのでしょうか。今回は、一般のサラリーマンとは全く異なる給与体系や、階級による驚くべき格差について掘り下げていきます。
- 最高位「立行司」の推定年収と月給の内訳
- 序ノ口格から始まる厳しい下積み時代の給与実態
- 数百万単位の装束代や軍配を支える支援の仕組み
- 定年65歳後の退職金やセカンドキャリアの現状
立行司の給料と年収のリアル!推定1500万円の内訳とは
相撲界の頂点に立つ立行司、木村庄之助と式守伊之助。彼らの給料は、一般企業の役員クラスに匹敵すると言われています。しかし、その高収入の内訳を見てみると、基本給だけで成り立っているわけではないという、特殊な給与構造が見えてきます。
ここでは、立行司の具体的な月給額や手当、そしてボーナスを含めた総額について解説します。華やかな土俵の裏側で、彼らが実際に手にしている金額の現実に迫ります。夢のある金額である一方、そこに至るまでの道のりは決して平坦ではありません。
基本給は意外と堅実?月給40万〜50万円の現実
立行司の基本給(本給)は、月額40万円から50万円程度と言われています。この金額だけを見ると、大企業の部長クラスや中小企業の役員程度であり、相撲界の最高権威としては「意外と少ない」と感じるかもしれません。
しかし、これはあくまで固定の「基本給」にあたる部分です。行司は日本相撲協会の職員という扱いであり、この基本給をベースに様々な手当が加算される仕組みになっています。勤続年数や実績に応じた昇給もありますが、基本給自体が青天井に伸びるわけではないのが特徴です。
年収を押し上げる「各種手当」と「場所手当」
立行司の年収を大きく支えているのは、基本給以外の豊富な手当です。まず「装束補助費」として、立行司クラスでは月に約5万円が支給されます。さらに、本場所中には「場所手当」や「旅費交通費」などが別途加算され、地方場所や巡業への帯同でも手当が発生します。
また、行司には力士のような懸賞金はありませんが、結びの一番を裁く立行司には、協会や後援会からの特別な配慮がある場合もあります。これらの諸手当を積み重ねることで、月々の手取り額は基本給の倍近くになることもあるようです。
ボーナス事情と推定年収総額1500万円説
日本相撲協会の職員である行司には、一般企業と同様に賞与(ボーナス)が支給されます。支給額は基本給の数ヶ月分とされ、夏と冬の年2回支給されるのが通例です。立行司クラスであれば、1回の賞与で100万円単位の額が動くことは想像に難くありません。
これらを含めた立行司の推定年収は、約1400万円から1500万円程度とされています。横綱の年収(給与のみで約4000万円前後)と比較すると見劣りしますが、行司として最高峰の待遇であることは間違いありません。安定した高収入が保証された地位と言えるでしょう。
横綱との待遇格差と「名誉」の価値
横綱と立行司は、共に相撲界の最高位に位置しますが、収入面では3倍以上の開きがあります。しかし、立行司には金額以上の「名誉」と「権威」が与えられています。土俵上で横綱の土俵入りを先導し、天皇賜杯の授与式にも立ち会うなど、その役割は象徴的です。
また、移動の際はグリーン車やハイヤーが用意されるなど、待遇面でも特別扱いを受けます。金銭的な報酬以上に、相撲の伝統と歴史を背負う存在として、協会内でも別格の扱いを受けているのです。この名誉こそが、立行司にとって最大の報酬なのかもしれません。
理事・副理事待遇という組織上の地位
立行司である木村庄之助や式守伊之助は、相撲協会の組織図上でも重要な位置を占めています。彼らはしばしば「理事待遇」や「副理事待遇」として扱われ、協会の運営にも関わる立場になります。これは単なる審判員を超えた、管理職としての側面も持っています。
そのため、給与体系も一般の行司とは一線を画し、役員報酬に近い性質を帯びてきます。ただし、不祥事や差し違え(判定ミス)があった際の責任も重大で、進退伺いを出すなどの厳しい処遇が待っていることも、役員待遇ゆえの厳しさと言えるでしょう。
階級社会の厳しさ!序ノ口格から立行司への昇進と給料
行司の世界は完全な年功序列と階級社会です。新人は「序ノ口格」からスタートし、長い年月をかけて一歩ずつ階段を登っていかなければなりません。その給与格差は凄まじく、下積み時代はアルバイト以下の金額で生活することになります。
ここでは、各階級における具体的な給与事情と、昇進のハードルについて解説します。立行司という頂点にたどり着けるのは、同期の中でもごくわずか。実力と運、そして健康が揃わなければ到達できない、過酷な出世レースの実態を見ていきましょう。
月給1万円台?幕下格以下の極貧下積み時代
行司として採用されると、まずは「序ノ口格」としてキャリアをスタートさせます。この時期の月給(本給)は、驚くことに1万4000円から2万円程度と規定されています。各種手当を含めても、手取りで14万円から15万円程度と言われており、決して裕福とは言えません。
しかし、若手行司は基本的に相撲部屋に住み込みで生活します。家賃や食費がかからないため、この金額でも生活自体は可能です。とはいえ、個人の自由になるお金は少なく、兄弟子の世話や雑用に追われる日々が続きます。まさに修業の時代と言えるでしょう。
十両格・幕内格への昇進で変わる生活水準
長い下積みを経て「十両格」に昇進すると、ようやく一人前の行司として認められます。この段階で月給は14万円から20万円程度に上がり、装束も麻から絹へと変わります。さらに「幕内格」になれば月給20万円から36万円程度となり、一般的なサラリーマンと同等の収入を得られます。
十両格以上になると「関取」扱いとなり、部屋での個室待遇や、場合によっては通勤も認められるようになります。また、土俵上でも名前がアナウンスされるようになり、行司としてのやりがいと収入がようやく釣り合い始める時期でもあります。
三役格から立行司へ!わずかな枠を巡る争い
幕内格の上にあるのが「三役格」、そしてその上が「立行司」です。三役格の給与は月給36万円から40万円程度となり、高給取りの仲間入りを果たします。しかし、ここから立行司になれるのは、定員2名(木村庄之助・式守伊之助)という極めて狭き門です。
実力だけでなく、先輩行司の引退を待つ必要があり、タイミングによっては三役格のまま定年を迎える行司も少なくありません。立行司への昇進は、給与アップ以上に、行司としてのキャリアの集大成という意味合いが強く、多くの行司が目指す究極の目標となっています。
給料に見合う重責?短刀を帯びる覚悟とリスク
立行司が高い給料を得ている背景には、それ相応の、あるいはそれ以上の重い責任があります。彼らの腰に差された短刀は、単なる飾りではありません。「判定を誤れば切腹して詫びる」という、武士道精神に基づいた覚悟の証なのです。
ここでは、立行司だけが背負う精神的なプレッシャーと、実際のリスクについて解説します。一瞬の勝負を裁くために全神経を研ぎ澄ませ、万が一ミスをした場合には進退伺いを提出する。そんな極限状態の仕事内容を知れば、その報酬が決して高すぎるとは思えないはずです。
「差し違え」で進退伺い!即引退の可能性も
行司にとって最大の失態は、勝負の判定を誤る「差し違え」です。特に立行司の場合、その責任は重大で、差し違えが発生した際には即座に相撲協会理事長へ「進退伺い」を提出するのが慣例となっています。多くの場合、慰留されて続投となりますが、出場停止処分を受けることもあります。
過去には、度重なる差し違えや失態により、定年を待たずに引退を余儀なくされた立行司も存在します。年収1500万円という待遇は、毎日の土俵で進退をかけるという、現代社会では稀有なプレッシャーへの対価でもあるのです。1つのミスがキャリアを終わらせる恐怖と彼らは戦っています。
また、2024年以降の行司の動きを見ても、短期間での休場や体調不良による交代が見受けられます。高齢での務めとなる立行司にとって、土俵上の緊張感は肉体的にも精神的にも限界に近い負担を強いるものであり、その心労は計り知れません。
土俵上の裁きだけではない!激務の裏方業務
行司の仕事は、本場所の土俵で勝負を裁くことだけではありません。実は、番付表の書き手である「番付書き」や、場内アナウンス、翌日の取組編成会議の書記など、膨大な裏方業務をこなしています。これらは階級に関わらず分担されますが、上位の行司はそれらを統括する責任があります。
さらに、地方巡業では移動の手配や宿舎の割り振りなど、旅行代理店のような業務も行います。これらの業務は年間を通して発生し、休みはほとんどありません。華やかな土俵上の姿は、彼らの仕事のほんの一部に過ぎないのです。
数百万円の装束代!華やかな衣装の費用負担
立行司が身にまとう絢爛豪華な装束。金糸銀糸がふんだんに使われたその衣装は、一着で数百万円することも珍しくありません。では、これほどの高額な衣装代は、一体誰が負担しているのでしょうか。行司の給料から支払われているとすれば、手元にはほとんど残らない計算になります。
ここでは、行司の装束や軍配にかかる費用と、その調達ルートについて解説します。実は、これらの道具の多くは自腹ではなく、強力なバックアップによって支えられています。相撲文化を支えるパトロンの存在が見えてきます。
給料では賄えない?一着数百万の装束事情
立行司や三役格の装束は、京都の職人が手作業で仕立てる伝統工芸品レベルの代物です。夏用、冬用と季節ごとに用意する必要があり、その総額は高級車が買えるほどになります。これを行司個人の給料(月給40〜50万円)で賄うことは、現実的に不可能です。
そのため、高位の行司の装束のほとんどは、出身地や所属部屋の後援会、企業の社長などの「タニマチ」から寄贈されたものです。装束には寄贈者の名前が刺繍されていることもあり、行司は支援者の期待を背負って土俵に立っているとも言えます。
代々受け継がれる「軍配」の価値と管理
行司が手に持つ軍配もまた、非常に高価で貴重な品です。特に立行司が使用する軍配は、何代にもわたって受け継がれてきた歴史的価値のある骨董品や、著名な工芸家による作品が多く、値段がつけられないほどの価値を持つものもあります。
これらは先輩行司から譲り受けたり、部屋の師匠から預かったりするケースが一般的です。もし破損や紛失があれば取り返しがつかないため、その管理には細心の注意が払われます。道具一つ一つが、行司個人の所有物というよりは、相撲界全体の財産として扱われています。
若手行司の衣装代はどうなっているのか
一方、幕下以下の若手行司の装束は、木綿や麻などの比較的安価な素材で作られています。丈も短く、足袋を履かずに裸足で土俵に上がるのが決まりです。これらの衣装代に関しては、協会からの「装束補助費」や、所属する相撲部屋からの援助で賄われることが多いようです。
階級が上がるにつれて装束は豪華になり、自分で用意するものや寄贈されるものが増えていきます。行司にとって装束のグレードアップは、そのまま出世の証であり、モチベーションの一つとなっています。
定年65歳のその後!退職金と引退後のマネー事情
力士の現役寿命は30代前後と短いですが、行司は65歳の定年まで勤め上げることができる息の長い職業です。では、定年を迎えた後の生活はどうなるのでしょうか。退職金の有無や、引退後の再雇用の可能性など、老後のマネー事情について解説します。
サラリーマンのように厚生年金はあるのか、退職金で悠々自適な生活が送れるのか。長年相撲界に貢献してきた行司たちの、土俵を降りた後の人生設計に迫ります。
規定はあるが非公開?気になる退職金の相場
日本相撲協会には退職金規定が存在し、定年まで勤め上げた行司には退職金が支払われます。具体的な金額は公表されていませんが、過去の資料や懲戒解雇時の事例(退職金不支給の処分など)から推測すると、立行司クラスでは1000万円単位の退職金が支給されると考えられます。
ただし、これは勤続年数や最終的な階級によって大きく変動します。長年務めても階級が上がらなければ退職金も伸び悩みますが、一般企業の定年退職者と同等か、それ以上の水準は確保されていると見られます。協会職員としての福利厚生は手厚いと言えるでしょう。
再雇用はある?引退後のセカンドキャリア
行司には、相撲協会の「参与」として再雇用される道も一部残されていますが、基本的には65歳で完全に引退となります。親方として協会に残る力士とは異なり、行司が指導者として残る枠は非常に限られています。
そのため、多くの行司は定年後、悠々自適な隠居生活を送るか、あるいは相撲に関する講演活動や執筆、メディア出演などで収入を得るケースが見られます。現役時代に築いた人脈や知名度を活かせるかどうかが、引退後の生活を左右する鍵となります。
国民年金と厚生年金の加入状況
行司は相撲協会の職員であるため、厚生年金や健康保険に加入しています。したがって、定年後は一般のサラリーマンと同様に公的年金を受給することができます。若い頃からの加入期間が長いため、満額に近い年金を受け取れる可能性が高いでしょう。
退職金と年金、そして現役時代の貯蓄を合わせれば、老後の生活は比較的安定していると言えます。ただし、現役時代のような高額な手当やタニマチからの支援はなくなるため、生活レベルの調整は必要になるかもしれません。
まとめ:立行司の給料は責任と伝統の対価である
立行司の給料事情を探ると、単なる「高給取り」という言葉では片付けられない、相撲界独特の価値観が見えてきました。推定年収1500万円という金額は、現代社会では十分に高収入ですが、短刀を差して命がけで勝負を裁く責任の重さを考えれば、決して法外な金額ではありません。
また、序ノ口格からの長い下積み、数百万の装束を支える支援体制、そして一度のミスで進退を問われる厳しさ。これら全てを含めて「行司」という職業が成り立っています。彼らは給料のためだけでなく、伝統を守る誇りのために土俵に立っているのです。
次に大相撲中継を見る際は、力士の激しい攻防だけでなく、その勝負を裁く行司の姿にも注目してみてください。華やかな装束の下に隠された、プロフェッショナルとしての覚悟と、それを支える懐事情を知ることで、土俵の景色がまた違って見えるはずです。


コメント